さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



……え。


酔いで蕩け切った脳内に、一筋、電流が流れたかのような衝撃。

反射的に顔を上げると、頬にさら、と長い髪が落ちて。


そこで初めて──

ウィッグを外されたことに気がついた。


「……最初っからこの可能性は考えててん。ディレクターから聞いた謎の美人スタッフの目撃情報。二次審査の時、俺らの部屋に来た千歳くん似のスタッフ。皆戸遥風、峰間京、冨上栄輔のあんたに対する異常な執着」


耳元に淡々と落ちる篤彦の言葉に、思考が着いていけない。


「で、ずっと不自然やったのがその髪。二ヶ月経っても、初めて会った時と比べて全く伸びてる感じがせんかった。最近も黒髪に染めたってわりに、色落ちが一切ない。他の外見は完璧やのに、そこんとこが甘かったなぁ」


……椎木篤彦に、男装がバレた。


普段であれば、なんとか言い訳を考えようと脳みそをフル回転させるところ。

けれど、酔いの回った脳内ではまともに思考もできず、ただこれが『焦るべき事象』だと認識することしかできなかった。


やばい……。


ゆったりとした口調、さら、と髪を撫でる優しい手つき。


「な、全部話して楽になってみ?どうせ訳アリなんやろ、あんたも」


そんな甘い声音が、蕩け切った脳内に直接染み込んで。

全てを赤裸々に話してしまいたい衝動に駆られる。


……だって、普通にダメじゃん。


家庭の存亡を背負っている人がいる中で、自己中心的な理由でグループに水を差して、掻き乱そうとしているなんて。

完全に、今私がやろうとしていることは、人として最低なことだ。

このまま大人しく私の計画を全て白状して、大人しく追放されておいた方が──


と、そんな思考が脳裏によぎりかけたけれど。

霞む思考の中、私はなんとか保った理性を総動員し、自分の太ももに手を移動して──


ギュッ!と思いっきりつねった。


「……っ!」


鋭い痛みに、思わず顔をしかめる。


けれど──


そのおかげで、一瞬だけ思考が晴れた。


違う。

今の私は、正しく判断できる状態じゃない。

だから、今はまだ全てを話さず──

冷静な状態に用意したカードを提示して、見逃してもらうのが最優先だ。


と、慌てて思考を立て直した私は。

ふっ、と顔を上げて──

真っ直ぐに、篤彦を見つめた。



「……取引しましょう」