さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



「……俺にはもう、失敗する余裕なんかない。家に即金を戻せる、絶対にコケない最高のグループでデビューするためには、どんな小さな不安因子も見逃せへん。……わかるやろ?」


……その告白で、全ての辻褄が合ってしまった。


やけに、他人のことを気に掛ける理由。

やたらと有望株に話しかけている理由。

私を警戒して、ずっと目を光らせている理由。


それは、全て──

彼の完璧なデビュープランに少しでも水を差すような、危険因子がいないか監視するため。


まさに、私のような『何かを隠している』存在を炙り出して──排除するためなのだ。


私は瞬きも忘れて、じっと俯くことしかできなかった。

そんな私を、斜め下から見上げるように覗き込んでくる篤彦。


軽く首を傾げ、冗談っぽく目を細めてくる。


「同情しました〜?」


わざとおどけたみたいに言って、目を細める。


さらりと流れる長めの前髪の下から覗く、黒なのに角度によっては翡翠みたいに緑がかって見える瞳。

左目の下の涙ぼくろ。軟骨まで開いたピアス。


──ピアスの数って、今までの苦しみの数に比例するって、聞いたことがある。


心の痛みを忘れるために、身体的な痛みで打ち消した結果なんだって。


病に伏せる母。年の離れた弟と妹。

貧乏で、どうしようもなく不運な家庭。


そんな中で、篤彦は一人苦しみながらも、不幸に甘んじることなく、自身の手で最高の打開策を得ようとしている。



運命にこんなにも振り回されていても──

まだ彼は、『幸せ』を諦めていないんだ。


そんな彼の切実な願いに、私は──

水を差そうとしている。



そのことに気づいた途端、罪悪感で胸がきゅうっと締め付けられ、思わず黙り込んでしまう。


と、そんな私の揺らぎに勘付いたのか。


目の前の彼はわずかに口元を緩め、その瞳に挑発的な光を宿す。

そして、すっと伸びてきた手が、 私の頬を、指先で軽くなぞった。


びくん、と心臓が跳ねた。


近い。

動揺を押し隠さないといけないのに──

鼓動が、うるさい。


声を発する前に、篤彦が静かに口を開いた。


「──同情したなら、教えてくれへんかな」


甘い声音に、じりじりと追い詰められていく。




「千歳くんの──本当の目的」