さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


このテラスはL字型の比較的大きな作りになっていて、曲がり角の向こうの様子はすぐには窺えない。

誰だろう、と思って、そっと角の向こうを覗いてみると。


「……え」


思わず、小さく声が漏れた。


薄暗がりの中、手すりに片肘をかけながら、白い煙を吐き出している横顔。

その横顔を認識した瞬間、心臓がドクンと跳ねた。


いつものスーツ姿とセットされた髪ではないラフな雰囲気だったけれど、あの顔は紛れもなく、今回のオーディションの審査員長。



──巫静琉だった。



それだけでもかなりの衝撃なのに、さらに驚くべきことに。

その横で彼と談笑しているのは、見覚えのある横顔で。


ゆるやかに伏せられた睫毛の下、光の加減で深緑にも見える瞳。

ふわりと落ちた前髪に隠れた、上品な横顔。

ゆったりと落ち着いたトーンの関西弁。



……椎木篤彦だ。



なんで、と思った。


オーディションの審査委員長と、いち参加者。

絶対に並び立つことのない二人が、何やら入り込めないような雰囲気で、言葉を交わしている。


親しげ、というほどでもない。けれど、明らかに繋がっている何かを感じる。


会話の内容はよく聞き取れないけれど──


静琉は淡々と煙をくゆらせながら、何かを指示するような口ぶりで語っていて。

篤彦は、その言葉をゆったりと微笑みながら聞いている。


──普通の参加者と、代表がこんな距離感で会話するもの?


私は咄嗟に、近くの柱の陰へ身を寄せた。

心臓が、ドクンドクンと早鐘を打つ。


以前からずっと、篤彦に関してはいくつか引っ掛かることがあった。

彼がどうして全ての有望株と仲良くしたがるのか。

私をやたらと詮索してくる理由はなんなのか。


けれど──

もし、篤彦が運営側のスパイで、参加者たちの素の人間性を、静琉に流しているのだとしたら。


一瞬で、辻褄が合ってしまう。