さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

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し……しんどかった。

曲が終わった瞬間、押し寄せてくる疲労感。

慣れない魅せ方に振り切った反動もあるのだろう。けれど、一番の原因は──あの狂ったオタクに動じないように精神を張り詰めていたことだ。

もともと、サビ前のキリングパートでは、誰かに向かってファンサをするつもりだった。

『Sugar⭐︎Dream』の本家ライブでは、そこでファンサをするのが定番になっている。そして、その瞬間を捉えた動画がSNSや動画サイトでバズるのも、もはやお約束。

けど、少し問題があった。

それは、私の本気のファンサは結構破壊力が高くなるってこと。
下手に参加者に向ければ、惚れられて面倒なことになるかもしれない。
だから、彼を選んだ。
小山明頼。
私に一際強い恨みを持っていて、絶対に靡くことのなさそうな相手。

──なのに。

「ちとせーッ!!サイッコーだーーッ!!」

ステージ下で両手をぶんぶん振り回し、今にも飛び跳ねそうな勢いの明頼。
しかも、うるさすぎて番組スタッフにしっかり注意されている。

ほんと、どうしてこうなった。

パフォーマンス前までは、あんなにも敵意剥き出しの視線を向けておいて……その変わり身の速さは何?チョロすぎない?

彼がガバッと立ち上がって完璧なコールをし始めたときは、さすがに表情管理が乱れそうになった。
気にするな、気にするなと自分に言い聞かせながら必死にパフォーマンスしていたので、疲労感がいつもの倍だ。
もともと体力がそんなに無いのも相まって、気を抜くと膝が震えそうになる。
なんとか踏ん張りながら、乱れた呼吸を整え、うざったく目にかかる前髪をかき上げた。

まあ、ステージ下の参加者たちの表情を見るに──ある程度のインパクトは残せたのかな。
そんなことを考えていると、審査員席で鼓朱那がマイクを握るのが見えた。
講評の時間だ。
私は背筋を伸ばし、『Sugar⭐︎Dream』の振付師でもある彼女の言葉を待つ。

しかし──

「えーと……なんかね、女として負けた感がスゴい」

ダンスの講評が来るかと思いきや、聞こえてきたのは、そんな悔しげな一言だった。

「はい?」

「女やめたい……肌白いしまつ毛長いし細いし。何食べたらそんな可愛くなれるの?お花とか?私もお花食べればイケるかな?」

ツッコミを入れるべきか迷っていると、すぐさま乙瀬凛也が助け舟を出してくれる。

「朱那さん、真面目に講評してください。そういうのはファン垢作ってSNSに呟いて」

「ハッ、すみません!ダンス、ダンスね。後半で少しスタミナ切れかな?軸がブレたけど、全体的には素晴らしかった!ダンススキルを見せにくい振付でも、この子上手いんだろうなって伝わったよ。『動きを魅せる』というより『自分を魅せる』に特化した、アイドルらしいダンスって感じ。磨けばきっとさらに光るかと!」

「ありがとうございます」

朱那の講評に、私は微笑んで頭を下げる。やっぱり、プロの目は誤魔化せない。軸がブレたのは多分、明頼の暴走に動揺したからだ。