さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


その後の練習は、相変わらず順調に進んでいった。

数日が経ち、チームとしての完成度も着実に上がっていく中で──

唯一気に掛かったのは、遥風の私への態度。


というのも、今まではすごく積極的に絡んできたにも関わらず、ある日を境に急に口をきいてくれなくなったのだ。

……今まで会話を始めるのは毎回遥風からだったので、必然的に会話はほとんどゼロになる。


ほとんどゼロ、というのは、一回だけ会話があったから。

とはいっても、会話と言って良いのか分からないほど短いやり取り。


そして、その内容は──


「首の絆創膏、何?」

「……虫刺され」

「……へえ」


それっきりだった。

しかも、その声音は冷たく、どこか棘があって。

それが本当は何なのか、いつ誰につけられたものなのか、見透かされているみたいだった。

また男漁りしてるとでも思われてるのかな。


完全に、嫌われてるよね……。


と、そんな重苦しい気持ちの中でも、ハードなレッスンは続いていく。


今日の格好は、昨日遥風に絆創膏を指摘されたので、少しでも気にならないようにとタートルネックを選んだんだけど……

春になりかけのこの季節には、少し暑かったかもしれない。


「千歳くん、顔赤いっすけど……大丈夫すか?」


そのまま何とか午後練を終えての休憩中、隣に座った栄輔が心配そうに覗き込んできた。

私は汗に濡れた髪を無造作にかきあげつつ、ため息混じりに答える。


「ちょっと暑くて……先出るわ」


それだけ言い残して立ち上がると、私はひと足さきにスタジオを後にした。


スタジオを出ると、ひやりとした廊下の空気が肌を撫でる。

熱を帯びた身体が徐々に落ち着いていくようで、思わず深く息を吐き出した。


廊下を抜け、人気のないテラスの方へ向かう。


昼と夜の境目に差し掛かった、紫と橙の混じった空色。

日は沈みかけで、吹き抜ける風は既に冷たくなっていた。


冷たい風を心地よく感じながら、疲労を吐き出すように深呼吸していると──

ふと、鼻を掠める刺激臭。


苦味と甘さの混じった──

煙草の匂いだ。


瞬間、胸の奥が強張る。


向こう側、誰かいる──?