一瞬、表情が硬直する。


「……は?」


思わず、聞き返す。

急な侮辱に怒るとか以前に、言葉の意味を飲み込めず、思考が止まっていた。


「お前、普段は割と頭キレんのに千歳が絡んだ瞬間バカになんのな。気をつけろよ」

「……なんの話だよ」


徐々に思考が追いついてきて、苛立ちが湧く。

大嫌いなやつに、こんな惨めな話をして──
その結果がこれかよ。

思い切り眉根を寄せる俺に、翔はさらりと衝撃発言を投下する。


「だって……話聞く限り、榛名千歳ってお前のこと好きだろ」

「…………はぁ?」


予想の斜め上を行きすぎた言葉に、ぽかんと口を開けた。


……いや、何言ってんの?

一体どこをどう切り取ったらそうなるんだよ。


「お前こそバカじゃね。話聞いてた?」

「聞いてたよ。お前の自爆エピソード」

「自爆……」


ぴく、と頬が引き攣ったのを感じた。

そっちが頼んだから話してやったのに、散々ディスってくるな。こいつ本当に殴るか。


「冷静になって考えてみろよ」


すっ、と人差し指を立て、淡々と話し出す翔。


「もし本当にお前のことが嫌いで、千歳が栄輔に肩入れしてたとする。
その場合、俺が千歳なら絶対、お前の計画を知った時点で証拠を押さえて運営側に密告するね。それをわざと面倒な工作までして阻止したのは──

遥風。お前のため以外にある?」




──時が。




止まったかのように、思えた。





あまりに自然に翔から吐き出された見解が、驚くほど脳に自然に染み込んで。

衝撃のあまり、思考が一瞬真っ白になった。




……そんな。

そんなことって、あるのか。



冷静に考えてみれば、簡単に辿り着けたはずの視点。



なのに、俺は千歳のことを必要以上に憎んで、考えるのすら避けて──

裏切りだって決めつけていた。



呼吸が、浅くなる。



「お前の将来を潰したくなくて、炎上を止めたかったんだろ。
あと、パフォーマンス前に吐かれたっていう暴言も、ただ単に燃え尽き寸前のお前を挑発してやる気を出させたみたいに聞こえるけど。そうでなければ、わざわざそのタイミングでお前を煽る必要がない」



脳内で作られていた物語のピースが、一つ、また一つと崩れていき、そこに新たなピースが次々とはまっていく。



喉の奥が、焼けつくみたいに痛くなって。



ジーンと痺れるような感覚が、じわじわと全身に広がっていった。





──なんだよ、それ。

全部──俺のためだったってことかよ?





絶句しながら、微かに震える自分の指先を、ぎゅっと握り込むしかできなかった。