と、そんな因縁の相手の名前を父親に出され、勝てるわけねーだろ、と一瞬怯んだ。


俺は凡人、栄輔は天才。


そんなことは、とうの昔にわかりきっていることだったから。


けれど、その時の俺はやっぱりおかしくて──

今のグループなら、千歳と一緒なら、できるんじゃないかと思ってしまった。


そうして、冨上栄輔に勝つという『条件』を承諾した矢先に起こった、菅原琥珀の辞退騒動。


順位の基準は、グループ全体での評価と個人での評価、半々で決まる。

仮に個人で栄輔より上手くやれても、グループとしての完成度がこれではどうにもならない、と絶望した。


──軽々しく、千歳のことを人質にするんじゃなかった。


俺のせいで千歳が棄権するなんてことは、絶対にあってはならない。


だから、俺は、ほとんどパニックになって。

結果、一線を越えようとしてしまった。

俺が炎上して番組から降りることになってもいい。


ただ、千歳を守るためだけに。


あいつのためなら、番組をぐちゃぐちゃにして、後ろ指を刺されても関係ない、なんて思って。


──結果は、最悪。


皮肉にも、千歳を守ろうとしてとった行動は、すべて千歳に妨害されて。


『バカな真似ばっかして、チームに迷惑かけるなら話は別』


軽蔑の視線を向けられた瞬間、息が止まったのを覚えている。



全部全部、千歳のためにやったのに──

千歳のためなら俺の人生が潰れてたっていいと思ってたのに。



危うく、軽蔑されていることにも気付かず、あんな奴のために人生を棒に振るところだった、と。



そう締めくくり、俺は一通りの説明を終えた。

ずっと黙って俺の話を聞いていた翔は、俺の言葉が終わると共に、静かに目を瞑った。


しばらくの沈黙の後──


はあ、と何かを吐き出すようなため息が落ちる。

よほど衝撃を受けたのだろう。



こめかみに手を当て、数秒間何も言わずにいた彼は──

やがて、静かに目を開いて。



「……お前ってさ、バカ?」



真っ直ぐに、そんな言葉を放った。