冨上栄輔。


彼は、一応俺と血が繋がっている。

昔家を出て行った俺の母親が、一般人男性と再婚して産んだ子が、栄輔。


つまり、俺にとって──
『異父弟』にあたる存在だった。


俺にとっては唯一血を分けた兄弟のようなもので、ダンススタジオで出会った当初は仲良くしていた。

けれど、いつからだろうか。


『あれはお前から母親を奪った男の子供だ』

『お前が栄輔に勝たないと、俺の教育が正しかったとあの女に証明できない』

『絶対に勝て。負けたらただじゃおかない』


父親から、憎い相手だと刷り込まれ続けて、最初のうちは相手にしていなかったのに。

ステージでのソロを栄輔に奪われた日──

俺は初めて、父親から包丁を向けられた。


『俺がいくらお前に投資したと思ってるんだ?頼むから、これ以上失望させないでくれ』


涙目で縋るようにそう言ってくる父親の姿を見て、泣きたいのはこっちだ、と思った。

勝手に期待されて、勝手に失望されて、たまったもんじゃない。

栄輔に負けたら、辛い練習がさらに辛くなる。


そんな出来事が続いた結果、いつの間にか俺自身も、栄輔に敵意を向けるようになっていた。


あいつは、ステージでいくらミスをしようが、身体中ぶん殴られることはないんだろう。

毎朝日が昇る前に叩き起こされて、学校を休んでまで練習なんかしないんだろう。

深夜動けなくなるまで踊らされて、終了時間の前にバテたら夕飯を抜かれることもないんだろう。


……俺の方が、必死に努力してる。

なのに──


なんで、俺より上手い?


どうしてお前が、俺より幸せそうなんだよ。


その当時から、俺の中で栄輔は、能天気な幸せ者で──

絶対に越えられない、悪魔のような才能の持ち主だった。