千歳のことが、本当に好きだった。
親に刷り込まれた表現じゃなくて、俺自身の表現を見てくれて。
俺の今までの努力を真っ直ぐに認めてくれたから。
千歳のおかげで、自分の表現を変えられた。
ダンスを、歌を、あいつのためだけにやろうって思えた。
けれど──
俺の親は、頑なに俺の表現の変化を認めなかった。
『また変な癖がついたな。あいつの影響か』
あいつは、俺が伸び伸びと表現するのを嫌う。
俺を理想の『型』に嵌めるために、魂を削るような切羽詰まったような表現ばかりを教えてきた。
そんなあいつにとって、俺が自信に満ち溢れステージを心地良く楽しんでしまうのは、きっと許せなかったんだろう。
俺の親は業界に顔が利くから、千歳の背景も最初から知っていた。
知った上で、あいつを利用することも、排除することもできる立場にいた。
そして、案の定、彼は脅してきたのだ。
『お前に悪影響を齎す人材は、ここには要らない。お前がそのままのスタイルを続けるというなら──今すぐ、榛名千歳の男装をメディアに売る』
なのに──
当時の千歳の言葉を真に受けて、変に自信を持って、張り合ってしまったのが間違いだった。
『俺の表現が間違ってないって、証明させろよ』
親の顔を真正面から睨んでそんな言葉を投げると、一瞬の沈黙の後。
大きなため息を吐かれた。
また、手を出されるか。
そう思って、反射的に身構えたけれど。
代わりに親が吐いたのは、こんな言葉だった。
『……そこまで言うなら、試してみてもいい。ただし、一つ条件がある。次の審査の順位で、冨上栄輔に勝つこと。それができなければ、すぐに榛名千歳を売って、お前の表現を矯正する』
そう言われた瞬間、言葉に詰まったのを覚えている。
