「人って、追い詰められた極限状態で本性出るもんじゃん?だから、化けの皮剥がれないかなーって思ってキツく当たってみてる」


その衝撃の事実に、思わず息を呑んだ。

つまり──
翔は、千歳が本当はどんな人間なのかを試したくて、わざと追い詰めていたってこと。

翔は千歳の目論み通り彼女を嫌っていると思っていたけど……きっと、どこかで違和感に気づいていたんだ。


「……お前、ほんっと読めない奴だな」

「いや、だって半分は本気だから。正直、お前や栄輔がそこまで榛名千歳に執着する意味が分かんないよ。あいつが仮に女だったとしても絶対に無いね」


苛立たしげに言いながら、ぐしゃっと髪をかき上げる翔。

なぜ彼がそこまで千歳を毛嫌いしているのかはよく分からなかったけれど──
理由はどうあれ、少し安心してしまった。


練習開始してすぐ、翔が千歳に壁ドンしている現場を目撃したときから、翔みたいな完璧な奴に迫られたら流石の千歳も落ちてしまうんじゃないかと危惧していたけれど。

天鷲翔が千歳に対してその態度なら、その心配は無さそうだ。


「ま、千歳って生意気だし、何考えてんのか分かんねぇし、すぐ人のこと突き放すしな」


翔と千歳がくっつくことはない。そう確信できたのが嬉しくて、つい大袈裟にそんなことを言ってしまう。

ちょっと盛って千歳のことを悪く伝えておけば、翔は絶対に千歳に手を出さないだろう。

そんなダメ押しのつもりで言った言葉に、翔が食いついた。


「……お前、榛名千歳となんかあったんだっけ?」


千歳の『本性』とやらを暴くためのいい材料になるとでも思ったんだろうか。

珍しく深掘りしてこようとする翔に、なんでお前なんかに話さなきゃいけないんだよ、と内心ちょっとうざったく思いつつ。

翔×千歳ルートを完璧に防ぐために、千歳の株を下げておいた方がいいかもしれない、なんて思考もよぎって。

葛藤の末──俺は、翔に情報を提供してやることにした。


「ああ、二次審査のときの話な」


俺の言葉に、顔を上げる翔。

まだ重たい身体を壁にもたせかけ、自嘲的に笑う。


天鷲翔、お前は絶対に榛名千歳に手を出すなよ。

あいつは今、俺の『復讐対象』なんだから。

壊すまでは、他の誰にも触れさせるつもりはない。


そんな思考を、胸の中で反芻しながら──

俺は、あの二次審査で起きた出来事を、淡々と語りはじめた。