「……あ」
ばったり。
目の前に、天鷲翔が現れた。
──うわ。
あまり得意ではない幼馴染との遭遇に、俺は反射的に目を逸らす。
カメラ前ではビジネスパートナーだと思って普通に喋っているけれど、カメラのないこの場所では不必要な会話をする義理なんてない。
ふい、と無視をして歩いていこうとする。
けれど。
「遥風」
背後から、翔の声。思わず足を止める。
まさか、向こうから話しかけられるとは。
きっと翔は、俺のことを嫌っている。『栄輔が三人で仲良くしたそうだから、仕方なく』というようなスタンスで俺と居るようなお前が、わざわざこんな二人きりの時に話しかけてくるなんて……どういう風の吹き回し?
「何」
ポケットに手を突っ込んだまま、振り返る。
早く終わらせろよ、という圧を込めて、じっと睨む。
「話したいことがある」
「嫌だ」
絶対長くなんだろ。
心の中で毒づいて、さっさと踵を返そうとする。
──けれど。
「榛名千歳から頼まれたんだよ」
背後から投げられた名前に、ぴた、と足が止まった。
ゆっくりと、振り返る。
翔の表情は、揶揄うでもなく、至って真剣だった。
「こっち」
それだけ言って、さっさと歩き出す翔。
『榛名千歳』
その名前に、いやでも反応してしまう自分に嫌悪感が湧く。
もう必要以上に関わらないと決めているんだ、余計なことに首を突っ込まない方がいい。
──けど、同時に。
千歳に何かあったのかもしれない、という胸騒ぎも抑えられなかった。
ぐるぐると考えている間に、翔の背中はどんどん遠のいていく。
「……返事くらい聞けよ」
口で毒づきながらも、足は勝手に前に出ていた。
思考と感情の狭間で揺れながら、深いため息を吐く。
──今回だけだ。
自分を納得させるように呟くと、俺は足を早めて翔を追った。
