──けれど。

計画は、全く順調とは言えなかった。


……と、いうのも。


話せば話すほど、こっちの方が千歳に惹かれそうになってしまうから。

我ながら言ってて虚しくなる話だけれど、もうこれは不可抗力としか言いようがない。


千歳の一挙一動すべてに、心臓が跳ねる。今まで通りに俺と話してくれているという事実に、喉奥がじわりと熱くなる。


困ったように微笑む顔も、不意にこっちを上目遣いで見つめてくるのも、動揺した時に身体にギュッと力が入るのも死ぬほど可愛いし。

微かに甘いシャンプーのような香り、耳元を優しくくすぐる透明な声まで、全部が全部、二次審査の千歳を思い出させる──とんでもない未練の起爆剤。


忘れるどころかこっちが乱されてどうすんだよ……あぁもう、ガチで腹立つ。


どう足掻いたって、あいつを好きなのはやめられないってことかよ。


でも正直、千歳以外の女を抱くより千歳との触れるだけのキスの方がよっぽど良かったし……最近では千歳以外の女への興味を失って、遊び相手たちと連絡を取るのさえだいぶ億劫になってきてるし。


考えれば考えるほど、自分が千歳に惹かれているのは明らかで、苛立ちをぶつけるようにぐしゃりとタオルで髪をかき上げた。


……一体さっきから何を考えてんだ、俺。


どんなことを考えていても、気づけば思考が榛名千歳へと引き寄せられてしまっていることに気づいて、大きくため息を吐いてしまった。


「だっさ……」


思わず吐き捨てた言葉が、静寂の中に落ちた。

本当に、自分が何をやっているのか分からない。

千歳を忘れるために近づいたはずなのに──逆にどんどん未練が増していくのが止められない。


なんで、俺ばっかりこんなに悩まなきゃいけないんだよ……早く、千歳にも同じように悩んでほしい。

俺のことで頭をいっぱいにして、眠れなくなるくらいになってくれれば良いのに……。


……やめよう。


練習後は、どうもダメだ。

疲労で頭が働かなくて、気づけば変なことばかり考えてしまう。

とりあえずこういう時は寝て強制的に思考をシャットダウンするしかない。

そう思った俺は、やっと重い腰を上げて、スタジオ前の休憩スペースを後にしようとする。


と、その時だった。