『周囲が認めてくれなくても……そのぶん私が認めてるから』
彼女のことを思い出すたびに、ずくん、と心臓が鈍く痛む。
……俺は、彼女を信じた。
地下深く、暗い部屋に、何年も閉じ込められて。
何度ドアを叩いて、助けて欲しいと叫んでも、誰にも届かなくて。
諦めかけて死んだようになっていた俺に、響いたノック音。
誰にも聞いてもらえなかった叫びを、唯一拾い上げてくれた人間だって、信じ込んでいた。
──けど、結局は全てが茶番で。
千歳は、内心では俺を軽蔑していたという。
あの優しい笑顔、声音は全て、チームの空気を壊さないための『仮面』に過ぎなかったんだと。
あいつの目には、最初から俺なんか映っていなかった。
──分かってる。
痛いほど分かってるはず、なのに。
俺は、彼女のことを忘れられなかった。
それも、あいつを守るために──自分の夢を棄ててしまうくらいには。
「……はっ」
思わず自嘲的な笑みがこぼれた。
あんなことがあっても、まだ千歳の影に囚われている自分が、気持ち悪くて仕方がない。
『お前が日本に残るということは──榛名千歳の男装が公になるということだ』
どれだけ本気で抵抗しても──結局はそんな親の言葉ひとつで全身が凍りついて、何も言い返せなくなる。
千歳がいると、俺は確実に弱くなってしまうのだ。
千歳への恋心は、今やもう自分の夢への道を妨害する足枷でしかない。
夢を選ぶためには──忘れなきゃいけない。
綺麗さっぱり、跡形もなく。
そうすれば、逃げなくて済む。無理にアメリカなんかに行かずに済む。
──だったら、早く忘れてしまいたい。
この執着を断ち切るためなら、何だってしてやる──そんな自棄っぱちな思いに駆られた俺は。
気づけば、女遊びに走るようになっていた。
