「……練習も、全然ついていけないし……」
「……うん」
「レッスンでもめっちゃ指摘されるし……、翔には辞退してとか言われるし……」
「あー、そうなの?」
私を否定も肯定もせず、優しい声で相槌を打ちながら頭を撫でてくれる京に、どう頑張っても整わなかったはずの呼吸が徐々に落ち着いていくのが分かった。
何これ、このままじゃ私ホントに──京がいないと生きていけなくなりそうじゃん。
やっぱ、数えきれないくらいの女の子を沼らせてきただけあって、こうやって慰めたりするのにはすごく慣れてるんだろうな……。
まんまと京の策略にハマってしまった感じで悔しいけど──
限界を迎えた今の精神状態じゃ、誰かに話さずにはいられなかったから、不可抗力だ。
そんな言い訳を自分に言い聞かせながら、私は弱音を続けてしまう。
「遥風とかもさ……女遊びがてら私に絡んできて本当わけわかんないし」
「……冨上栄輔にはキスされるし?」
「うん…………え?」
京の言葉に頷きかけて──違和感に気づいた。
……それ、なんで知ってるの?
呆気に取られてポカンと口を開ける私を、京はくすくすと面白そうに見下ろしてくる。
「篤彦くんから聞いた」
その名前に思わず、うっと息が詰まった。
あの人、二次審査の時からだけど、マジですぐ言いふらすよね……。
ちょっと表情を引き攣らせる私を、京はしばらく楽しそうに眺めていたけれど──不意に、するりと頬を撫でてきて。
そのまま両手で顔を包むように上向かされ、バチッと至近距離で視線が交錯した。
「……こんな可愛いんだから、狙われるだろうなとは思ってたけど。いざ変な虫がついたって聞くと、不快でしかなかったよね」
「……その割には、不快そうな表情してないね」
思わず率直な感想が口をついて出た。
言ってることが物騒な割には、さっきから何故かずっと機嫌が良さそうな表情をしている京。
私の苦労話を聞くのが、そんなに楽しいのかな……。
と、ちょっと怪訝に思って眉根を寄せる私に、京は薄く微笑んだ。
「今はもうどーでもいっかな」
「え?」
どうでもいい……?
