さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

印象的なシンセサイザーのイントロが、鮮やかに静寂を破る。
四六時中聞きすぎて、骨の髄まで染みついたメロディ。いつもなら条件反射で歓声を上げるところだけど、今回ばかりはまったくテンションが上がらない。

軽やかなターンに、バシッと音に合わせたポージング。
まあ、振付はきちんとなぞっているみたいだけど、こんなのはまったくもって『Sugar⭐︎Dream』じゃない。
だって、今ステージにいるのは、俺の大嫌いな──

挑戦的な微笑みで、カメラを捉える。
そして流れるように、完璧な小悪魔ウインク。

──え?

一瞬、思考が止まった。
自分の心臓が、ギュッと鷲掴みにされるような感覚。
鼓動が高鳴っている、と気づいたのは数秒後だった。

スイモニにハマってからは、どんな美人に言い寄られてもまったく靡かなかったこの俺が、男相手に、ドキッとしてしまったのだ。

なんで、こんな奴に?混乱したけれど、どこかでその答えは分かっていた。
彼の魅せ方が、アイドルとして『カンペキ』だったから。
アイドルらしく、コロコロと変わる表情。
すまし顔で、ちょっと口を尖らす。かと思えば、少し上目遣いで誘うように微笑み、すぐに目を細めて天使のような甘い微笑みへ。
しかも、顔がバカみたいに可愛いせいで、そのすべてが致命的な破壊力。

な、なんつー表情管理だよ、えぐすぎんだろ……。

その衝撃を処理しきれないまま、畳み掛けるように歌唱パートへと移る。

『No one! 邪魔しないでよ My love』

砂糖を溶かしたミルクのように、甘くクセになる歌声。力強い声質で無いにも関わらず、スタジオ中にはっきりと響く声量に完璧な音程。語尾をキュッと上げる、アイドルらしい歌い方。

会場が大きく沸いた。

さっきまで散々千歳の悪口を言っていた奴らでさえ、我を忘れてその高揚感にどっぷり浸かり大歓声を上げている。

なんで……ここまで完璧な表現ができるんだよ。

バカみたいなグループ。脳内空っぽそう。

本当にそう思ってる奴が、できる表現じゃねえんだよ。
表情作り、歌い方、踊り方。そのすべてが、スイモニの魅力を細部まで分析して、研究し尽くした奴にしか出せない最高レベル。

「あいつ……本当に男?」

「やべえ、新しい扉開きそう」

その強烈な魅力にあてられ、戸惑っている様子の参加者たち。
もちろん、俺も例外じゃない。
気づけば、俺の中にあった榛名千歳へのどす黒い感情は消え、代わりに甘く痺れるようなときめきが脳内を支配していた。

……って、待て待て、チョロすぎるだろ。しっかりしろ、明頼。

そうツッコむ理性的な俺もいたが、その目はやはりステージ上の千歳から離せないままだった。

だって、仕方ねえだろ。
全参加者の中でもトップを狙えるほどの、異次元に整ったビジュアル。しかも、イケメンというより完全に美少女系統。それに加え、歌もダンスも表情も、俺の好みドンピシャ。スイモニ最古参だから分かるけど、ちゃんと本家へのリスペクトもビシバシ伝わってくるし……。

しかも、あの怪物・天鷲翔の直後であるにも関わらず、まったく霞むことなく、それどころか──完全に場の空気を塗り替える凄まじいスター性。なんて末恐ろしい奴なんだろう。