普段、私は練習が終わったあと、すぐに帰って部屋かラウンジでゆったりとクールダウンすることが多い。
それが、精神的疲労の多いこの番組収録の中で、唯一心を落ち着かせられる私のお気に入りの時間だった。
けれど、今日の私には流石にそんな時間を持つ余裕はなくて。
午後練の後、カメラが引き上げた後も私は一人でスタジオに篭って自主練を続け──
気づけば4時間近い時が経っていた。
時計の針は、既に24時手前。
まだまだ自分の納得できるラインには到底達していないけれど、そろそろ帰って身体を休ませないと、明日の練習に悪影響が出るかも知れない。
と、そんな考えのもと、荷物をまとめ始めていたその時。
ガチャッ。
突如、スタジオの扉が開く音。
ハッとして視線を向けると、そこに立っていたのは──
峰間京だった。
「なかなか帰ってこないなーって思ってたら……まーだやってんの?」
いつも通りポケットに手を突っ込みながら、悪戯っぽく微笑んでくる彼。
ゆったりとこちらに歩み寄り、当然のように私の隣に腰を下ろしてきた。
いつもの香水の代わりに、ふわ、と淡いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
たぶん、シャワーを浴びた後なんだろう。
汗をかいた後の私にあんまり近づかないほうがいいのに……とちょっとだけ距離を取るけれど、すぐに詰められて意味がなかった。
「珍しく焦ってんじゃん、なんかあった?」
じっ、と私の顔を見つめてそんなことを聞いてくる京。
その相変わらずの勘の鋭さに、少し言葉に詰まる。
「別に……ちょっとグループで着いていけなくなってるだけ」
なんとなく、そのことを言うのが恥ずかしくて、ちょっと視線を逸らしながら答えると。
京は、ちょっと意外そうに目を見開いた。
「そーなの?順調なのかと思ってた」
「いや、うん、順調だよ……私以外はね」
自分で言ったのに、きゅうっと胸が痛くなってしまって、私は思わず目を伏せた。
結局、今日も居残ってまで練習したのに、ダンスも歌も全く上達したようには思えなかった。
ここまで来ると、そろそろいやでも自覚し始めてしまう。
私は決して、彼らと同じステージに立つ資格なんて無いのだ、と。
必死に夢を追いかける彼らの中に紛れ込んで、芸能界なんか本当は興味もないくせに、何故か四次審査までのうのうと生き残って。
今までの審査では、自分のスキル磨きそっちのけで、他人の問題に首突っ込んでばっかりの舐め腐った態度。
そして案の定、脱落ギリギリになってから、焦って付け焼き刃でなんとかしようとして。
女だからとか、嫌々参加させられたからとか──
そんな言い訳をつらつら並べて、彼らの舞台に泥を塗ろうとしている。
それって、限りなく自己中で、失礼すぎるよね……。
