「……さっさとシャワー使うてもらえる?寝てる間入られたらうるさいねん」
その声の主は、おそらく栄輔と同室の篤彦。
そんな言葉に、栄輔は完全に動揺を押し隠せないまま、震えた声で聞く。
「っい、いつからそこに……」
「……さあ?」
……何、それ。
椎木篤彦、絶対に見てたでしょ……。
まだバクバクと心臓高鳴らせながら、篤彦の面白そうな笑みの滲んだ言葉ににじわりと冷や汗をかく。
「童貞とは思えん大胆さやな、栄輔くん♡」
「〜〜っ!やっぱ見てたんじゃないっすか!」
「あはは」
ああ、やっぱり……!
楽しそうに栄輔を揶揄う篤彦の声に、内心盛大に頭を抱えた。
これでまたさらに篤彦に私の正体を怪しまれることになるんだろうな……。
「ってか、なに童貞って決めつけてるんですか?」
「ちゃうの?」
「……俺結構先輩ウケいいんすよね〜」
「やかましいわ」
そんな彼らのくだらない会話を最後に、遠ざかっていく気配。
……行った、か。
足音が聞こえなくなったのを確認すると、私はぱちっと目を開け──
そして、盛大にため息を吐いた。
もともと重かった気持ちがさらに沈み込んで、文字通りどん底だ。
栄輔が思いの外ぐいぐいくるのは、本当に何……?
キスするのも知らない純粋な子だと思ってたのに、意外に慣れてそうで衝撃。
実は結構可愛く猫被ってたんだな……と、疲労で鈍った脳内にくだらない思考が過ぎる。
そして──
よりによって椎木篤彦におそらく今の現場をばっちり見られてしまったのが一番まずい。
……彼に詰められた時どう返すか、そろそろ本気で対策練らないとな。
一人そんなことを思いつつ、ぐしゃっと髪をかき上げて立ち上がる。
同性愛者のふりして乗り切るか?
それとも、いっそ自白を──いや、それは危険すぎる。
そんなふうに思考をぐるぐると巡らせながら、私は依然として高鳴っている心臓を押さえ、静けさの満ちる夜の廊下を歩き出すのだった。
