さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



彼の、いつもの爽やかな清潔感のある香りが、体温と混じって濃く鼻をかすめる。


一瞬、何が起こったのか分からず硬直し──

数秒後、ようやく状況を理解したのと同時に、パニック状態に陥る。


ま、また急にこんな……!!


「……離せよ」

「嫌です」


身を捩って逃げようとすると、背中と後頭部に手が回って、ぎゅう、ときつく胸に抱き込まれる。

疲労が溜まったこの体じゃろくに抵抗できるわけもなく、私は大人しく受け入れるしかなかった。


「俺だって──千歳くんの力になれる。このまま一人で抱え込んで壊れようとしてんの、黙って見てられないです」


苛立ちと焦燥の滲んだような、そんな余裕のない声が耳元に落ちて、少し身体が強張る。

その抱擁には、独占や支配の色なんて微塵もなくて。


今にも身投げしてしまいそうな誰かを、必死で引き止めるみたいな──

そんな切実さがあった。


彼はきっと、心の底から恐れているんだろう。

私がこのまま──自分の限界に気づかずに自爆してしまうことを。


……本当に、どこまでも優しい子だな。


あんなに冷たい態度ばかり取ってきたのに。

酷い言葉を投げかけ、突き放して、何度も心を踏みにじったのに。

それでもなお、こんなふうに心配してくれるなんて。


ズキン、と鈍く胸の奥が痛み、思わず視線を落とす。


と、そんな私の心情を知ってか知らずか。

栄輔はさら……と優しく髪を撫でてきて。


「……ねえ。千歳くんは、どうして俺が嫌いなんですか?」


そんな言葉を、耳元に落とした。

心臓がドクン、と嫌でも高鳴ってしまう。


聞かれて、しまった。