内心でちょっと感心するけれど、もちろん表には出さない。

私は何気ない顔で栄輔の隣に腰を下ろすと、ルーズリーフを一枚手に取り、わざとらしく感心したように揶揄う。


「……妄想力が豊かなようで何より。お前実は、自分でラノベとか書けちゃうタイプなんじゃないの」

「っ、もーーうるさいなっ!」


苛立ったような声音で、こちらに手を伸ばしてくる栄輔。

今日、彼が翔にしてたみたいに思いっきり平手打ちされるかも……と、思わず身構えたけれど。


──きゅっ、と優しく左頬をつねられただけだった。


……終わり?


ちょっと拍子抜けする私に、反撃完了とばかりに机に向き直ってさっさとルーズリーフを片付け始める栄輔。


なんか、やっぱり私、彼に女の子扱いされてる気がする……。
他のメンバーには割と雑に絡むくせに、私にはいつだってまるで壊れ物に対するような接し方だし。

女だとバレてはいないと思うけど、なんか引っ掛かるんだよなぁ。


内心で首を傾げる私に、栄輔は言い訳っぽくこぼした。


「いつもは別にこんな大量に書いてないんすよ。ただ、今回のパフォーマンスは、絶対に妥協したくないから」


その口ぶりに、ちょっと違和感があった。

『今回のパフォーマンスは』?


彼のこれまでの順位は、充分安全圏。私みたいに、今回頑張らないと脱落の危機とかでもないだろうに。


「なんで?」


何気なく聞いてみると、栄輔はルーズリーフを片付けていた手を止め、ちょっと俯いた。

躊躇うように言葉を探した後──ぽつり、と呟く。


「俺と翔と遥風が、また共演できるなんて──思ってなかったから」


その言葉に、ちょっと息を呑む。

……やっぱり、栄輔の幼馴染二人に対する思い入れって、不思議なくらい強いと思う。

今日の昼からずっと気になっていたけれど──彼がそこまで彼らに執着する理由って、一体なんなんだろう。


特に、遥風。

普通、あそこまで強く拒絶されたら、絶対に嫌いになるだろうに──


彼は、ずっと遥風のことを信じて、手を差し伸べようとさえしている。


最初のうちは、栄輔の性格が良いからかと思っていたけれど、それだけにしてはやっぱり不自然。


と、ひとり思考を巡らせる私に、栄輔はぽつりぽつりと話し始めた。