「…………おわっ??!」


ようやく私がいることに気がついたのか、栄輔がビクッと飛び跳ねんばかりに身体を震わせ、光の速さでルーズリーフを覆い隠した。


「……」

「………見ました?」


耳の先まで真っ赤になって、まるで秘密の日記を守る子供みたいな表情。

覗き見してしまったことをすごく申し訳なく思うけど──その罪悪感を押し隠して、私はバカにしたように鼻で笑う。


「なに痛いことしてんの?」

「もう本当に終わった本当に恥ずかしい」


私の言葉に思いっきり頭を抱える栄輔。


効いてるなぁ……。


ごめんね、と心の中で謝りつつ、表ではさらにデリカシーのない人間を演じて追い討ちをかけてみる。


「厨二病は誰しもが通る道だよ。元気出しなって」

「あ〜〜〜もうマジで勘弁してください……」


息も絶え絶えになって机の上に突っ伏してしまった。

嫌われるためとはいえ、ちょっと言いすぎたか。

少し後悔していると、机の上に突っ伏したまま、ボソ、と呟きをこぼす栄輔。


「こうしないと……憑依できないんです」

「……え?」


ちょっと目を見開く私に、ほとんど死にそうになりながら栄輔は続ける。


「こうやって、曲の主人公を作り込むんです……その人の生きてきた全部を想像して、感情を借りて、自分と情緒的に結びつけないと……ステージ中、憑依できなくて」


そこで言葉を切り、ふ、と机から顔を上げる栄輔。

微かに頬を赤らめ、ちょっと不貞腐れたように視線を落として、ぽつりと呟く。


「俺、完全に感覚型だから──こういう深い分析と、パフォーマンスの時の自分の精神の安定が無いと、曲の中に入り込めない」


……そういう、こと。

栄輔の憑依型パフォーマンスは、万能な超能力みたいなものじゃなくて、こういう地道な努力の上に成り立ってるものなんだ。


一言で『天賦の才』として片付けちゃいけないものなんだろう。