さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



…………え?


一瞬、何が起こったか分からず、硬直する。


そして、数秒後。

ようやく、理解した。



──冨上栄輔が、天鷲翔の頬を平手で打ったのだ、と。



赤くなった頬を押さえ、目を見開いて絶句する翔。


……いや、うん、その反応になるよね。

だって、私も自分の目が信じられない。



いつも天鷲翔に憧れの眼差しを向け、暇さえあれば彼について回っていたあの冨上栄輔が──

まさかこんな暴挙に出るとは。



栄輔の肩は、わずかに震えていた。

怒りとも哀しさともつかない涙を滲ませた目で──まっすぐに、翔を睨んでいる。



「……ずっと思ってたけど、お前、冷たすぎるんだよ……っ!!」



栄輔の絞り出すような声に、翔の瞳孔が微かに揺らいだ。

私に何を言われようが決して瞳の温度を変えなかった彼が、完全に動揺しきっているのが分かる。


そんな中、ぐちゃぐちゃの感情をそのまま吐き出すように続ける栄輔。



「なぁ翔、お前が言ってることは正しいよ。けど、俺は千歳くんの言うとおり──翔に、遥風を分かってやってほしいよ。お前ら二人に、昔みたいに仲良くなってほしい。大切な友達同士がギスギスしてんの、もう見たくねぇんだって……」



泣くのを堪えるような、震えた声が細くなって消えると共に。


再び部屋に落ちる、沈黙。



──前から、思っていたけれど。

栄輔って、どうしてこんなにも遥風にこだわるんだろう。


あんなにも敵意を向けられ、冷たくされてきたのにも関わらず──

頑なに彼のことを信じて、彼を日本に残すために私にまで縋ってきた。



そう考えると、彼の遥風に対する感情って、ただの憧れの念ひとつじゃ片付けられないような気がする。

何か、もっと執着に近いような何かが、彼を突き動かしてるんじゃないだろうか──。