途端、ピリッと一瞬にして張り詰める空気。
翔の視線が、真っ直ぐ私に向けられる。
その視線は静かでいて──凍てつくように冷たい。
「……そう?でも、あいつがどれだけ不幸な境遇にいようが、他人に迷惑をかけていい理由にはならないだろ」
「お前が不幸な境遇に置かれた遥風を無視してきたから、今こうなってるんでしょ」
「いかにも俺のせいみたいに言うけど、俺に遥風の面倒を見る責任は無いからね」
「どうしてそこまで他人事でいられるんだよ」
静かに、けれど確実にヒートアップしていく口論。
そして、話せば話すほど、私の中ではっきりしていく。
──翔の正義と私の正義は、真反対なんだろうな、と。
翔は、他人の背景に何があったかなんて基本的にどうでもいいと思ってる。
彼にとって『可哀想な事情があった』なんて情報は、免罪にはならない。
彼が見るのは常に『今この瞬間、誰がルールを破ったのか』ということだけ。
単純で、揺るがない善悪観。
対して私は、行動だけを切り取って善悪を判断するのはどうも苦手だ。
一見すると悪のような行動に走ってしまう人間に、どういう背景があったのか、どうしてそこまで追い詰められてしまったのかを理解したいと思ってしまう。
峰間京の件があってから、さらにその考えは強化されたと思う。
『秩序』を重んじる翔と、『理解』を重んじる私。
どちらが正しいかなんて、決められない。
例えるなら、裁判官とカウンセラーが同じ土俵でディベートしているようなものなんだから。
理解し合えるはずがない。
不毛な話し合いだ、と分かってはいたけれど──遥風のことがかかっている限り、このまま引き下がるわけにはいかなかった。
「つまりお前は俺にどうしてほしいの?」
「理解する努力をしてから判断しろってこと」
「俺が理解したところで、遥風がやらかした事実には変わりないよな」
──これ、素で接していたとしても、普通に仲悪くなれていた説あるかも。
なんて、そんな思考が頭をよぎってしまうほど、私と翔の相性は壊滅的だった。
真逆の価値観のぶつけ合いに若干歯痒くなりつつ、なんとか切り返そうと、再度口を開きかけた──
その瞬間。
パシンッ──!!!
突如。
乾いた鋭い音が、空気を切り裂いた。
