「……」


完全に、気圧されていた。


黙り込む私の反応を窺うみたいに、顔を覗き込んでくる翔。

さらり、と揺れた前髪の隙間から、夜空を閉じ込めたみたいに綺麗な瞳が、じっとこちらを見据える。


……早く、何か言い返さなきゃ。

いつも通り、不遜な態度で言い返さなきゃ──。


そう思えば思うほど、背中に冷や汗が滲んで、バクバクと心臓が加速するばかり。


どうしよう、どういう表情をすれば、なんて言えば。


天鷲翔の圧倒的な威圧感にあてられ、思考回路がぐちゃぐちゃになり、完全にパニックに陥っていた──


そのときだった。



「ちかーーーいっっ!!!!」



ベリッ!!!と思いっきり剥がす勢いで、私たちの間に割り込んできたのは──栄輔。


頬を真っ赤にしたまま顔を上げ、キッと翔のことを強く睨んだ。


「必要以上に千歳くん怖がらせんのやめろよ、翔!」

「は、俺?」

「そうだよ俺だよ!狼がポメラニアン威嚇してるようなもんだぞ!」

「……」


栄輔に説教され、心底不本意そうに眉根を寄せる翔。


そして私にとっても、彼の言葉はなかなか心外だった。

ポメラニアン……?栄輔にとって私は小型犬レベルに見えてるの?

今まで酷い言葉をぶつけまくってきたぶん、怖がられてるかなって思ってたのに、まさかのポメラニアン扱い……?


完全に作戦が破綻しかけていることを悟り、内心頭を抱えてしまう。

と、そんな私の腕を軽く引き、ローテーブルのそばに誘導してくる栄輔。


「とりあえず千歳くんは座ってください。……で、翔は千歳くんから離れたとこで立っといて」

「なんで?」

「千歳くんのこと怖がらせるからに決まってんだろ」

「……」


栄輔の言葉に、ぴくりと表情を引き攣らせる翔。

そして、そのまま視線を私にスライドさせると、じとっと恨めしげにこちらを見つめてきた。

『お前のせいで』とでも言いたげなその視線に、うっと息が詰まる。


なんか……ここ三人の人間関係が、奇妙な方向で泥沼化している気がする。

大丈夫か、これ……。


最高に気まずい感情に襲われつつ。

私は栄輔に促されるまま、ローテーブルのそばに腰を下ろすのだった。