さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


通りで、最近やたら優しくなったと思ってた。

仕草の一つひとつが柔らかくて、声も穏やかで。

でもそれは、私だから特別だったわけじゃない。

ただ、『女の子』の扱いが上手くなっただけなんだ。


うわー……なんか、想像以上に堪えるかも、これ。

胸の奥がじんわりと熱くなって、それが哀しみなのか、苛立ちなのか、自分でも分からなかった。


……でも、そりゃちょっとはヤケになって女遊びだってしたくなるよね。


二次審査で私に裏切られて、親からは海外行きを強いられ、夢だったエマからのデビューも絶望的になり。

三次審査でも良い結果は出ず、周囲とはぶつかってばかり。

そんなふうに、次から次へと追い詰められて──


遥風の心が限界へ追い詰められるのは、極々当然のことだ。


峰間京の時は、彼がクズ化した原因に私は関わっていなかったので、偉そうになんとでも言えたけれど。


今回ばかりは、何も言えない。


だって、私も彼をこうさせた『加害者』の一人なのかもしれないんだから。


──なんて、そんな鉛のように重い感情に駆られていた、その時。


「……っ!!」


視線の先のスマホが、バッと素早く拾い上げられた。

反射的に視線を上げると──明らかに焦ったような表情の遥風が、こちらを見下ろしていた。

お互い、何も言わずにしばらく固まって。

重苦しい沈黙が、二人の間に落ちる。


──そして、数秒後。


「……見た?」


静けさを破ったのは、遥風のそんな一言だった。

その低い声音には、ピリッとした緊張感が濃く滲んでいて。

どこか、敵意のような色さえ感じられてしまった。

そんなにバレたくなかった?

……週刊誌に売られるとでも思ってんのかな。
信用ないなぁ……って、まあ当たり前か。