──その角度、その笑い方。
二次審査中に何度も見てきたそれと、全く同じだ。
なんて、今更そんな感傷に浸って、心臓がキュッと締め付けられるけれど。
そんなことは決して表に出さず、無表情を保って聞き返した。
「今日振り付けた部分?」
「うん」
言いながら、トントン、と自分の隣の床を叩いてくる遥風。
座れ、という合図だ。
……正直、不必要な関わりはあんまり持ちたくない。
とはいえ、今は日中でカメラも回っているから、無視したら『不仲か』なんて憶測を呼びかねない。
それは避けたくて、私はできるだけ感情を殺したまま、すとんと遥風の隣に腰を下ろした。
少し離れた距離を保ったまま、隣から彼のスマホを覗き込む。
画面の中で流れているのは、今日、私たちがいくつか試した振り付けのうちのひとつだった。
課題曲の『桜嵐』は、幻想的で、どこか現実味の薄い浮遊感を持った楽曲。
その世界観に合わせて、動きの一つひとつに現代舞踊の要素を取り入れてみたりしたんだけど。
重力を感じさせないように踊るって、全身の筋力を使うから結構しんどいし、今まで踊ったことがないようなジャンルっていうのもあって、さらに難しい。
果たしてお客さんに見せられるレベルまでこの鬼畜なコレオを消化できるのだろうか……。
と、そんなふうに色々と思考を巡らせていた──その時だった。
「……ん、何その距離。もうちょい寄らないと見えないだろ」
そんな言葉と共に。
──グイッ。
肩に手を回され、少し強引な仕草で抱き寄せられた。
一瞬にして身体がぴたりと密着し、遥風の香りと体温を直に感じてしまって。
数秒間、思考停止した後──
完全に動揺して、心臓が一気に加速し始めた。
な、なになになに……?!
この人、本当にどういうつもりなの?!
私が本当は女だとか、二次審査のときに裏切られたとか、そういう記憶が全部抜け落ちてるとしか思えない。
そうでなかったら、彼女持ちなのにこの距離感はチャラすぎる。
前からこんな感じだったっけ?
彼女ができて、女の子に抵抗感が無くなったから?
私のことなんかなんとも思わなくなったから、平気で触れられるようになったってこと?
脳内が膨大な量のはてなマークで埋め尽くされて、何も言えずに硬直することしかできない。
そして、何故かそんな私の反応を隣からじっと見つめてくる遥風。
無言のまま、何かを確かめるみたいに。
なに、言いたいことあるなら言ってよ……!!
訳がわからなすぎて思考回路がショートしそうになった──その時だった。
