「『桜嵐』をパフォーマンス用にアレンジしたデモを、数パターン作った。とりあえず一番良さげなのをピックして、それベースで練習しようかと思ってる」
なんでもないようにさらりという彼の横顔を、まじまじと見つめてしまった。
……この一夜で、デモ音源を?しかも、数パターン?
有能にもほどがあるでしょ。
湧き上がる驚嘆を慌てて覆い隠し、私はぶっきらぼうに聞いてみる。
「……さっき流れてたのって」
「そのうちの一つ」
「……」
やはり、彼が作ったデモ音源だったらしい。
『桜嵐』って、だいぶメロディが複雑で、現代風の楽曲に落とし込むのは難しいだろうなって思ってたのに──翔は、そんな懸念をいとも簡単に飛び越えて、一夜にしてこんなにも凄まじい完成度のトラックを作り上げてしまった。
……この人、やっぱり人間じゃない説あるな。
今までの審査で、彼のいるグループは毎回完成度が異様に高かったことにも頷けてしまう。
揉め事が続いたという三次審査も、結局後からパフォーマンス動画を見てみたら凄まじいクオリティだったし。
伊達にエマプロ3期のエースを張っているわけじゃないんだ……。
と、そう思えば思うほど、彼が私みたいな問題児を真っ先にグループに招き入れたことが腑に落ちなくなってくる。
視聴者人気とビジュアル重視なのか……?
と、内心頭を捻る私の脳内を読み取ったかのように、翔はスッと冷たく目を細めた。
「……お前のことは、栄輔がまだ未練ありそうだったから取っただけ。それ以上でもそれ以下でもない」
突如、そんな温度の無い発言で切り捨てられ、少し表情が引き攣ってしまう。
そんなバッサリ言わなくても……とも思ったけれど、同時に、一番納得できてしまう理由でもあった。
だって、目の前にいるこの男は正真正銘、冨上栄輔のモンペだ。
オーディションで初っ端から私に彼の友達役を頼んでくるほど過保護なんだから。
今回、私たちを同じグループにすることで仲直りさせようとしているのか、はたまたしっかりと決裂させ、栄輔の未練を断ち切ろうとしているのか。
どちらにせよ、私は別に、天鷲翔に必要とされてるわけじゃ無かったんだ。
そのことは重々承知していたはずなのに、面と向かって言われてしまうと、やっぱりちょっと堪えるな……。
そんなことを思って、少し視線を伏せてしまっていた──
その時。
「……あのさ」
ふと、目の前にスッと落ちる影。
──え。
反射的に顔を上げた私は──
思わず、息を止めてしまった。
何故か。
それは、思っていたよりずっと至近距離に、翔の顔があったから。
背後の壁に手をつかれ、いわゆる壁ドン状態に追い込まれていたのだ。
