結局、私はその夜、一睡もできずに朝を迎えてしまった。

雪永さくらを前にした遥風の優しい眼差しが脳裏にこびりついて、離れる気配はなくて。

彼らのキスシーンが自動的に脳内で反芻されて──気づけば、二時間近い時が経っていたのだ。

まだ日は昇っていないけれど、このまま寝られる気は全くしなかったので、私はのそりと布団から抜け出した。

……まさかオールしてしまうとは。

遥風の彼女ごときに動揺しすぎでしょ、私……。

自分に呆れてため息を吐きつつも、洗面所に向かい、冷たい水で顔を洗って、軽く身支度を整える。

コンシーラーを塗って、目の下のくまを消すけれど、それでもどこか疲れたような印象は拭えない。

自分がどれだけ遥風のことでショックを受けているのかが、ありありと分かってしまう。

そんな自分が情けなくて、私は思わず鏡の前で苦笑を落とした。


……切り替えよう。


残念ながら、今の私には、遥風の恋愛にいちいち落ち込んでいられるような暇はない。

私はひとつため息を吐くと、脳内で改めてTodoリストを整理してみた。


①四次を生き残れるように、必死にスキルを磨く
②遥風の海外行きをどうにかするため、彼の父親に接触
③榛名優羽の家から逃げる計画を練る
④参加者から嫌われる(そろそろ本当に頑張る)


……これらを同時並行するのは、きっとめちゃくちゃ精神を使って大変だと思う。

けど、どれも達成しなくちゃいけない重大な目標たち。

ひとつも疎かにすることなく、全部死ぬ気で頑張らないと駄目だ。

こんなところで落ち込んで、立ち止まっている暇なんかない。

どれから手をつけるべきか、と考えた時に、頭が冴えない徹夜明けの今でもできるのは①のスキル磨きかな、ということで。

私は身支度を整え終えてすぐ、レッスンスタジオに向かうことにした。

静まり返った廊下を通って、私たちのグループに割り当てられたスタジオに到着する。

きっとこんな時間だし、まだ誰もいないだろう。

そう思い込んで、スタジオの扉を躊躇いなくガチャ、と開けた、次の瞬間。