パタン、とドアが閉まり、再び沈黙が訪れる廊下。
時が止まったような静寂の中で、背後の京が私の耳元へと唇を寄せる。
「とんでもないもん見ちゃったね」
なんて、まるで自分も初めて見たかのように言ってくるけれど。
──これが偶然の遭遇じゃないってことくらい、流石の私でも分かる。
京が、私にこれを見せたくて仕組んだんだ。
……おそらくは、私を、遥風に対して幻滅させたくて。
けど、きっと私は今、遥風に対してよりも。
完全に、自分に対して幻滅してる。
無意識のうちに、遥風に理想の押し付けをしていたこと。
あそこまで酷く突き放しておいて──
彼がいつか、もう一度だけ自分の方を見てくれるかもなんて、自惚れていたこと。
そんな自分の中の嫌なところ全てに気付かされて、吐き気すらしていた。
「……大丈夫?」
黙ったままの私の反応を窺おうと、顔を覗き込んでくる京。
……切り替えなきゃ。
知れて良かった。
私が変に調子に乗る前に、中途半端な期待で浮かれる前に、ブレーキをかけてもらえて良かった。
私は、遥風の恋愛に関係ない。
誰を選ぼうと、私が口を挟む資格なんてないし、そのつもりもない。
私はただ、遥風の『元友達』として、遥風の助けになりたいだけなんだから。
「……炎上しなければいいけど」
いつも通りの声音で。
いつも通りの冷静さを作って、肩をすくめた。
……弁えよう。
私が今考えるべきことは、遥風の恋愛についてじゃなくて、遥風の外国行きの阻止について。
ただ遠くから、彼の知らないところで、彼の助けになれればいい。
友達に戻れるかもとか、変に期待して近づこうとしても、混乱させるだけなんだから。
一定の距離はきちんと保ったまま、弁えて行動しなきゃ。
理性でなんとか形作ったそんな決意を、胸の中で反芻しながら。
ぐちゃぐちゃのままの感情を吐き出すみたいに、軽く息を吐いたのだった。
