『Game’s on, 真っ当な Ladies&Gentlemen』
艶やかなベルベッドのような、品格漂う低音ボイスが響き渡る。
その視線の送り方、目にかかる髪をかき上げる仕草、流れるようなファンサービス。
全てが完璧だ。
凄まじい計算と研究の末に作り上げられたであろうパフォーマンス。
だが、それを観客に悟られることなく、天性のセンスと圧倒的な華やかさとで押し隠す。
最初から完璧な、生まれながらの絶対王者。
そんな役を完璧に演じて、努力の痕跡など決して見せない。結果が全ての芸能界において、至極理想的なアイドル像。
そして何より、その容姿のアドバンテージは凄まじい。
口角を片側だけ上げる。軽く下唇を噛む。キザに眉を上げる。
そんな表情作りの一つ一つが、これ以上なく映える圧倒的な造形美。
華麗なターン、翻るジャケット。軽やかにこなす複雑ステップ。
絶対的な強者のオーラに、誰もが陶酔していた。
『そんな beaten path なんてつまんねーだろ』
自信に満ち溢れた歌詞が、彼の魅力を最大限に際立たせる。
先ほどの栄輔は、原曲者を完璧にコピーすることで、その圧倒的な実力を見せつけた。
対して、彼は──超えにきている。
ただなぞるだけでは終わらせない。
この曲を、喰いにきている。
原曲者に、挑戦状を叩きつけるように。
彼の瞳に宿る強い意志に、ぞわりと背筋が震えた。
ステージに立つ者としての覚悟。センターは誰にも譲らないという自負。
完全に、彼はステージを支配する王者だった。
サビの後、一旦勢いを落とす楽曲。くぐもるような低いシンセサイザーがフォーエイトほど続く。
これは、曲が次のフェーズへ移る前段階だ。
控えているのは、ダンスブレイクパート。
この楽曲最大の見せ場であり、最高の難易度を誇るパートでもある。
原曲者の『JACKPOT』が、ダンスの実力者揃いであるからこそ映えるパートだ。
たった1人で、どれだけあの迫力を再現できるのか。
誰もがそう考えていたのだろう、会場には妙な緊張感が漂っていた。
そして、一瞬の沈黙。
動きを止める。
ただ静かに、前を見据えて。
その佇まいには、有無を言わさない──威厳。
見ろ。
『Checkmate』
囁きと共に、音楽が弾けた。
歌唱が無くなったことにより、存分に発揮される彼の抜群のダンススキル。
細かい音まですべて拾う複雑難解な振付。そのシャープな動きが次々と音にハマり、えも言われぬ快感が背筋を駆け巡る。音を拾うのではない、まるで彼自身が音を奏でているかのような。
美しい手の動きに誘導され、視線がその顔に集まったところで、軽やかな投げキス。その大胆不敵な表情、世界を見下すような視線。
主役は俺。
分かったでしょ?
そんな彼のメッセージが、全参加者に鮮烈に叩きつけられたようだった。
最高潮の盛り上がりの中、指先を天に高く掲げ、最後の一拍が鳴る。
──1秒、2秒、静寂。
翔がポーズを解き、ふっと笑みを浮かべて。
ようやく、会場が轟いた。
