さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


……近いな。


『TRICK』として一度芸能界に出ている遥風が、彼女のような有名アーティストと知り合いでもおかしくない、とは思う。

けれど──どうしても、彼らがただの『知り合い』だとは思えなかった。

なんというか、もっと深くて、もっと甘ったるい親密さが、そこにはあって。


「……それにしても、本当に変わったよね、遥風。知り合った頃は私よりちっちゃかったのに」

「言うてそんな変わんなかったですよね。そっちがやたら弟扱いしてきただけで」


その会話で、気がついてしまう。

……二人は昔からの知り合いで。

雪永さくらは、私の知らない遥風を、昔からずっと見てきたってこと。


途端に、心の奥が、チリッとじりつく感覚。


──完全に、思い上がっていた。


あの自然な笑顔も、声も、私だけに見せてくれてたんじゃないかって。

けれど、全くの自惚れだったらしい。

彼にはきちんと、昔から、心を許せる人がいて。
私は、きっとそのうちの一人に過ぎなかったんだろう。

そんなことに今更気づくとか──本当、私、馬鹿みたいだ。


「嘘!こーんなちっちゃかったよ」

「は?言い過ぎでしょ」


ふざけたように笑いながら、親指と人差し指で小さなサイズを示すさくらに、少し拗ねたようにそっぽを向こうとする遥風だけど。

さくらは──それをやんわりと止めるように、遥風の頬に手を添えた。


「……今は、こんなにカッコいいのに」


声のトーンが、変わって。

遥風の目が、静かに細められた。


──あ。
見ちゃ、駄目だ。


そう直感した私は、反射的にそこから顔を逸らしかけたけれど──

顔を逸らそうとした私の動きを、後ろから伸びた京の手が阻む。


見ろ。


そんな無言の命令みたいに──視線を再び、前へと戻されて。

と、同時に。


二人の唇が、重なった。


最初は、触れるだけの口付け。
一度離れ、頬に指を添え、今度はゆっくりと深く──重ねる。


視界が、揺らぐ。


胸の奥に張り詰めていた糸が、プツン、と切れて。


数秒後──


ようやく京の拘束が緩んで、ハッと顔を背けた。
真っ白になった頭の中で──まず浮かんだのは。


『なんで』


その、三文字だった。