い、一体何なの……?!
今までは私が嫌がれば引いてくれたのに、今日の彼はなんだかやたらと強引だ。
何かを伝えたいんだったら、ハッキリ言ってほしいんだけど……!
文句をぶつけようと、思わず口を開きかけた──その瞬間。
「静かに」
唇にスッと人差し指を当てられ、制止された。
その真剣な眼差しに当てられ、反射的に口をつぐんでしまう。
と同時に、静寂の向こう側──おそらく同じフロアのどこかから、微かに足音が聞こえてきた。
誰か、来る。
物陰に隠れているとはいえ、こんな場面を目撃されたら、冗談抜きでやばい。
そう思った私は、焦って京の胸板を押しやろうとする。けれど、どれだけ必死で押し返そうとしてもびくともしない。
いよいよ変だ。いつもなら、押しやれば流石に離れてくれることが多いのに。
本当にどういうつもりなの……?
と、半ばパニック状態になっていたその時。
遠くから聞こえてきた微かな話し声に──息が、止まった。
同時に、心臓が破裂してしまいそうな勢いで加速し始める。
──その話し声がどんどんこちらに近づいてきて、私たちの存在がバレそうだから?
もちろん、それもある。
けれど──それ以上に、私の胸をざわめかせていたのは、その声の主だった。
「そこの番組、音響やばいで有名ですよ」
「やっぱそうだよね?毎回毎回被せ大きすぎて嫌だねっていつもメンバーで言ってたの」
思わず物陰越しからそっと覗くと、視界に入ったのは、見慣れた横顔。
──整った輪郭。通った鼻筋、柔らかく微笑む口元。
皆戸遥風だった。
少し伏せられたまつ毛の影が瞳に落ちて、瞳の奥の優しげな光が、隣にいる女性だけに向けられている。
そして、その女性にもどこか見覚えがあった。
ざっくり編んだオーバーサイズのニットに、すらっとした脚を覗かせたタイトスカート。
艶々の黒髪が、ふわりと綺麗に巻かれて肩にかかっている。
まさに、絶世の美少女と形容するのが相応しい彼女は──
『NoirEden』の雪永さくら。
グループ最年少、若干二十歳にして、磨き上げられたステージスキルと現実離れしたような美貌を兼ね備えた彼女は──まさに、『NoirEden』の絶対エースと言っていい存在だった。
それほどの大先輩で、一見手の届かない存在のような彼女に──
遥風は、まるで昔ながらの知り合いを見るような柔らかな視線を向けていたのだ。
そしてさくらの方も、至近距離で優しく彼に微笑み返している。
