「……おい峰間、ちょっとやばいんちゃうこれ」

「あの状態の明頼が粗相しないことはないだろうね」

「お前なぁ」


今回ばかりは流石に嫌そうに口角を引き攣らせる篤彦。

当然だ。エマプロ参加者が同じ事務所の所属アイドルに手を出したなんてことが知られたら痛すぎる。
性格は悪いけれど、一応常識人である篤彦は、流石に危機感を覚えたらしい。

と、そんな篤彦とは対照的に、京はいつも通りヘラヘラしたまま。


「じゃあ千歳、一緒に連れ戻しに行こっか」


なんて言いながら、当然のように私の腕を引いてきた。

……ちょっと待って、サラッと私を巻き込んでこないでほしい。何の関係もないのに。

あからさまに嫌な顔をする私に、京はちょっと笑って続けた。


「だってあいつ、千歳の言うことしか聞かないじゃん。協力してよ」


まぁ、確かに……。

京が行ったところで、明頼が100%聞く耳を持たないのは明らか。
暴走モードの明頼は、何をしでかすか分からない。もし私相手にしているようなとんでもないキモオタムーブをぶちかまして先方に訴えられでもしたら、参加者全体のイメージを落としかねない。

……私まで明頼と同類扱いされるのは、できれば避けたい。

「分かった」

思わずそう答えてしまった私に、くすりと満足げに微笑む京。

計画通りとでも言うような彼の態度を前に、どこか違和感は拭えなかったけれど。

明頼を野放しにしていくわけにもいかないので、私は結局京に連れられて事務所の本棟へと向かうことにした。


「……てか千歳さ、ちょっと会わない間にさらに可愛くなったよね。なんかあった?男?」

「サロンで色々やってもらっただけだよ」

「オーナーは男?」

「え、と……」


それは生物学的にって意味……?

ちょっと言葉に詰まって視線を落とすと、くすくすと面白そうに笑う京。

どうやら冗談だったらしい。

峰間京のメンヘラ的なノリ、今までは冗談だって割り切れていたけど、三次審査が終わってからはネタか本気かわからないから慎重になってしまう。


「千歳の困ってる顔ほんとかわいー」


そんなことを言いながら、慣れた仕草で頭を撫でてくる京。

ほんっと、息を吐くように可愛いって言うよね、この人。
やっぱり私のこと、ペットか何かだと思ってそう……。

なんて、隣にいる京に完全に翻弄されていたせいで。


「……一体何を企んでんだか」


ぼそり、と背後に落ちた篤彦の声には、全く気づけないまま。
私は、京に連れられて事務所本棟へと続く廊下を歩いて行くのだった。