さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「篤彦くんさすが〜」
「やろ?心優しい男と呼んでくれ」
「なぁ俺のは?心優しい男」
「知らん」
「……」


あまりにも明頼が不憫すぎたので、私は無言でそっと隣の明頼にサンドイッチを手渡してやった。

途端、明頼の表情がパァァァッと輝く。

「もう俺には千歳くんしかいねぇ……っ!」

言いながら、パッケージを一瞬で破って三秒で口に詰め込む明頼。
口いっぱいに頬張りながらうるうるした目を向けられ、ちょっと苦笑いしてしまう。

もういいや、この人には多少好かれても。多分何をやっても嫌いになってくれないだろうし……。
と、半ば諦めの境地でため息をつく。

そんな私の背後に隠れるようにしながら、明頼は同じグループの三人をキッと睨みつけた。

「おいお前ら全員女にモテるからって調子乗んなよ!もう今日付けでこんなグループ脱退してやるからな!バーーーカ!!!」

と、完全に敵意剥き出しの明頼に歩み寄り、悪びれもせず「まあ元気出せって」と肩を組む京。何様すぎる。誰のせいだと思ってるんだ……。

ギョッとした表情で振り払おうとする明頼に、京は慰め半分、からかい半分で絡み続ける。


「落ち着けよ。お詫びに嬉しいニュース教えてやるから」
「どうせろくなことじゃねぇんだろ?!」
「まーまー、そうピリピリしないで聞けって」


至極いつも通りの緩い口調でそう言うと、京はスッと明頼の耳元に唇を寄せ──


「今、事務所本棟の方にスイモニ打ち合わせに来てるっぽいよ」


と、こそっと囁いた。


その言葉が放たれたと同時に、何かスイッチが入ったみたいにカッと目を見開く明頼。

そして、次の瞬間。

彼はブレーキが壊れた車みたいに爆速で廊下を走り出し、一瞬で事務所本社棟の方向へと姿を消していた。


……。


呆気に取られて硬直する私と、その隣で満足そうに目を細める京。

スイモニという言葉ひとつで化け物じみた走力を発揮する明頼といい、謎に事務所側の打ち合わせスケジュールを把握している京といい、ツッコミどころが多すぎる。

特に京の方は、一体どういう手段で事務所側の情報を掴んでいるのか分からなくて怖い。多分、いや十中八九合法ではないと思う。今すぐやめたほうがいいと思うよ、そういうの……。