その後。

小道具倉庫から帰った後の話し合いでなんとか楽曲の方向性が決まり、軽く役割分担だけしてその日は早めに解散となった。

いつもなら練習が早く終わったことに純粋に喜んでいたところだけど──
今の私の心境は、全くもってそれどころじゃなかった。

というのも、遥風の態度の急激な軟化で、脳内が埋め尽くされてしまっていたから。


『……危な』


背後に感じた気配、低い声、懐かしさ。

ちょっと気を抜いたらすぐその一瞬がフラッシュバックして、鮮明に思い出してしまう。


……やっぱり、遥風って本当はすごく優しいよね。

憎くて憎くて仕方ないはずの私を助けてくれて、今まで通りに接してくれたんだから。

それがたとえ、グループ審査を円滑に進めるための義理的なものだったとしても──なんとなくじんわりと嬉しくなってしまう自分がいた。


三次審査中は色々あったけれど──それでも、ずっと遥風のことは気にかけていたのだ。
だから、彼の順位が下がっていたときも、天馬から彼の話を聞いたときも、すごく心配したし。

それに今回のことも加わってなおさら──

彼が、番組の辞退を強いられる状況にいるのを、放って置けなくなってしまった。

そんな思考の中でふと、昨日の帰り道に栄輔から聞いた話を思い出す。

殴り合いまでして抵抗したのに、今はもう外国行きを受け入れている、という話だったけれど。
その説明の中に、どうしても一つ引っ掛かることがあった。

その場では聞き流してしまったけど──


後々考えてみたらおかしい、遥風の外国行きへの態度の急変ぶり。


それほど必死に抵抗していた彼が、どうして急に折れたのか。

もしかして、親に何か弱みを握られていたりするのかも。

何か、自分の夢を捨ててでも守らなきゃいけないもの──って、なんだろう。

家族?それとも、恋人とか──?


……なんて、いくら私が憶測で考えても意味ないか。