倉庫に足を踏み入れてみると、ひや、と冷たい空気が肌を撫でた。

少し湿った埃の匂いと、木箱や段ボールの紙の匂いが混ざり合っている。

ハイテク設備の整ったスタジオとは打って変わって、あまり整備されていないような倉庫。
天井は低め、照明は裸電球がいくつかぶら下がっているだけ。

「……」
「……」

私も遥風も、一言も発しない。

ただ、互いに背を向けて、それぞれ違う棚を探し始めた。

あぁぁ、もう、気まずすぎて死にそう……!

心臓がバクバクと高鳴って、背中に冷や汗が伝う感覚がはっきりわかる。

こうなると、何か話しかけて間を持たせたくなってしまう。

けれど、また話しかけて、前みたいな感じで『話しかけんなっ!』って思いっきり突き飛ばされたら……。

……。

……余計なことを考えるのはやめだ。

とりあえず、私はもう、遥風には話しかけない、触らない。

彼の存在は一旦頭から消して、さっさと良さげな小道具を見繕って、持って帰って、終わりだ。

下手に彼にもう一度関わろうとなんて思わないこと。

そう自分に言い聞かせた私は、ひとつ息を吐くと、あらためてぐるりと立ち並んだ棚を見渡してみる。

すると、ふと目についた赤い物体。

……なんだろ、あれ。

段の中段より少し高い位置に、赤色に金の模様が刻まれた丸っこい何か……たぶん、達磨?

……一応、和風って括りには入るか。

インスピレーションとかは……まあ、期待できそうにないけど。

さっさと小道具倉庫から出たいあまりに、私は背伸びをしてそれに手を伸ばす。

手に取ってみれば、コロンと手の中に収まる赤い物体。

なんか、情けない顔……。

と、思わずちょっと口元を綻ばせていた時だった。

ふと、目の前に影が落ちて。


──あれ?


視線を上げると、ものを取ったことでバランスが崩れたのか、小道具の入った木箱が、上からぐらりと崩れ落ちてこようとしていた。


やっ、ば……!


慌てて身を引こうにも、間に合わない。

衝撃を覚悟して、ギュッ、と固く目を瞑った──けれど。

次の瞬間。


──ドンッ!


背後から伸びてきた力強い腕が、落ちてきそうだった木箱を押さえた。