「今回の課題は、与えられた曲からそのコンセプトを理解し、ひとつの舞台を作り上げることです。楽曲をどう編集し、どう再構築してコンセプトに合わせるのかは、すべて君たち次第。振り付けも、構成も、舞台演出も──全て自分たちの手で考え、形にしてもらいたいと思います」


確かに──これは、今までの審査とはわけがちがう。

限られた枠を壊す創作力、そして、与えられたテーマを骨の髄まで飲み込み、己の表現として吐き出すコンセプト消化力。

もはやアーティストに求められるような域のスキルを、エマはアイドルにも当然のものとして課してくるのだ。


「この審査は4・4・3の計3グループに分かれて行います。そのメンバーは──」


ついに発表か、と誰もが息を呑む。

視線が一斉に、背後のスクリーンに吸い寄せられる。

しかし──


『未定』


無機質な二文字が表示された瞬間、会場全体がざわめきに揺れた。

「未定?」
「ってことは、どうやって……?」

戸惑いの空気が広がる中、静琉は軽く片手を上げ、その場を鎮めた。

「今回のグループ分けは、こちらで決めず──君たち自身に決めてもらうことにしました。前回審査の上位三人、天鷲翔、峰間京、兎内陽斗は前へ」

……なるほど。

三次審査の成績上位三人に、メンバー選びの特権を与える、ということらしい。

一位は翔、二位に京、三番手には兎内陽斗。

正直、三次審査の一位は京が奪取するんじゃないかと思っていたけれど、結局二人の間で順位変動は無かった。

天鷲翔のパフォーマンスの本番を見ていなかった時こそ少し意外に思っていたものの、後から映像を見返してみたら、いとも簡単に納得させられてしまった。


天鷲翔は、正直──次元が違う。


形式的には同じ土俵には立っているものの、実際は、少年サッカーチームに一人日本代表が混ざっているようなものだ。

歌もダンスも、もちろん別格。

でも、彼について語るときに最も恐ろしいのは、そういう目に見える差じゃなくて。


ステージそのものを支配する力が、段違いなこと。


まるで重力が歪んでるみたいに、全てが彼に引き寄せられていく。
彼が中心に来た途端、これが正解だとでも言うように、バチッと重心が定まる。

あれはもう、技術云々じゃ説明がつかない──天性のカリスマ。選ばれた一握りが持つ、飛び抜けた才能だ。

チートにも程があるよなぁ、なんてちょっと感心してしまいながら、壇上に立つ翔を眺める。