「……何かあったん?」
ちょっと訝しげに首を傾げてくる篤彦に、栄輔がすぐに説明する。
「昨日、陽斗の家に何人かで集まってて。その帰り、千歳くんと一緒に帰って──その時に、寒そうだったんで貸したんです」
「一緒に帰った?珍しい」
栄輔の言葉を聞いて、こちらも怪訝そうに眉根を寄せる翔。
いや、そうなるよね。だって、今まで私は栄輔のことを嫌ってるような素振りばっかり見せてきた。
なのに、今になって二人きりで帰るとか、我ながらどういう風の吹き回し?って思うもん。
「栄輔、何もされてない?」
「……いや、その、むしろどちらかというと俺が手出した側っていうか」
「は?」
さらに混乱し始めたような翔に、篤彦が「まーまー、そう余計に焦らんでも」とゆるい口調で宥める。
「ってか、千歳くん髪染めた?」
「あ、はい……」
「やんなー?さっき一瞬誰か分からんかったわ、ようお似合いで」
「ありがとうございます」
そうやって篤彦と話してる間も、隣から注がれる翔の強い視線は止まらなかった。
その顔が異次元に整っているせいなのか、威圧感も並じゃない。
なんとか微笑を浮かべながら受け流すふりをしているけれど、内心では居心地の悪さに今すぐダッシュでスタジオの外に避難したい気分だった。
と、そんな張り詰めた空気を裂くように。
「間もなく収録始まりまーす!」
スタジオに、スタッフさんの声が響き渡った。
参加者たちが各々動き始めるのと同時に、翔の視線もスッと私から外れ、思わず小さくため息を吐いてしまう。
良かった、なんとか殺人光線から逃れられた……。
「またなー千歳くん」
「頑張りましょ!」
篤彦と栄輔のそんな声に軽く手を振り返してから、私は自分の席へ歩き出した。
