「……家すぐそこだから、ここまででいい」
嫌な予感がして、私は慌てて踵を返し、再び歩き出そうとする。
けれど、次の瞬間。
──ぐいっ!
力強く腕を引き寄せられて。
「っ……!」
気づいた時には、もう彼の腕の中だった。
あどけなくて少年っぽい、と思ってた彼の力は、思ってたより強くて、身長も体格も私なんかより全然『男の子』で。
制服のシャツ越しに感じるドクドクと早い鼓動に、ちょっと息を呑んだ。
「……すみ、ません」
口では謝ってはいるけど、だからと言って離すつもりはないみたいで。
むしろ、ぎゅっと腕に力を込められ、さらに距離が縮まる。
「俺やっぱり……千歳くんが悪い人だとはどうしても思えない」
耳元で響く、いつもより低い声。
栄輔の心臓が高鳴っているのが嫌でも分かってしまって、つられてこっちの鼓動も加速する。
「いつも何か疲れてるみたいで、一人で抱え込んでるの知ってます。きっと、俺なんかじゃ力になれないことなんでしょうけど……」
そこまで言って、言葉を探して。
でも見つからなかったみたいで、ため息を吐いて私の肩に額を預けた。
「……俺、おかしいですよね、男相手にこんな。初めて会った時から、おかしいんです。もうこれ、どうしたらいいのか……」
熱を孕んだため息が耳元で落ちて、思わずビクッと肩が震える。
……なんで、栄輔、私にそこまで。
今まで、特に関わりも多く無かったし、ここまで執着されるようなきっかけなんて何も無いと思ってたのに。
どこで間違えたのか記憶を辿っていくと、私はとある事実に気づいてしまった。
三次審査の駆け引きで絶大な効果を発揮した『揺さぶり三段構え』。
最初は優しくして、その後急に冷たくして、散々傷つけた後で、もう一度優しくする。
その手法を、私、気づかないうちに栄輔にもやってしまっていたんだ。
初対面で優しくした。その後、理不尽に突き放して──けれど、今日、素の笑顔を見せてしまって。
散々情緒をぐちゃぐちゃにされた栄輔は、まんまとそれにハマってしまったんだろう。
