「……っ、え?」
ハッと、弾かれたように顔を上げる栄輔。
……何やってんだ、私。
十分に考えることもせず、その場の勢いでつい言ってしまった。
内心めちゃくちゃパニックになりつつも、言ってしまったことは仕方がない。私はあくまで平静を装って、できるだけさらりと続ける。
「遥風がいなくなったらこの番組全体の人気にも関わるでしょ。遥風への説得は難しいけど、彼の父親に話をつけるくらいならできる」
……表面上はつらつらとそんな言い訳をしながら、内心では心臓バクバクだった。
なんか、今更何を言ってもツンデレ発言にしか聞こえない気がする……行動と態度があまりにも伴ってなさすぎる。
とはいえ、今更引き下がれない。語調を強くして、なんとか誤魔化すしかない。
「ねえ、聞いてんの?」
「っ!えっと……遥風は、よく深夜にエマのスタジオで父親にマンツーマンで稽古つけてもらってます。個人的に父親に接触するなら、その時かと」
そこまで言うと、栄輔はちらりと私を見た。
戸惑いと希望が入り混じったような瞳が、私を捉える。
「……本当に、協力してくれるんですか?」
「……自分のためだから」
ぼそり、と気まずげに呟くと。
その瞬間、栄輔は立ち止まって、泣きそうな表情で思いきり頭を下げてきた。
「ありがとうございますっ……!」
「だから、お前のためじゃないってば……!」
感謝感激、といった感じの彼の反応に、思わず心の中でため息を吐く。
まぁ、こうなっちゃうよね……。
けどまぁ、今回ばかりは、流石に黙って見過ごせなかったし……仕方ない代償ではあるんだろう。
栄輔に冷たい態度を取り続けるのもしんどすぎたから、ちょうどよかったのかもしれない。
そうして無理矢理自分を納得させようとする私に、栄輔は街灯の下、ちょっとはにかんだ。
「ここの参加者たち、遥風の根っこがいい奴だって知ってる人少なくて。
ただ、今は親に追い詰められて俺に当たってきてるのと、ちょっと口が悪いだけで──遥風はいつまでもかっこよくて、俺の憧れで、友達なんです」
遠い昔のことを思い出すように、ちょっと視線を伏せる栄輔。そんな彼の姿を見て、なんだか心の内が少し暖かくなった。
……この子は、本当に、目を逸らしたくなるくらい眩しいな。
才能に恵まれて、けれどそれに驕らず、捻くれず、友達にどれだけ冷たくされても、頑なに信じ続けるまっすぐさ。
きっと、映画や小説だったら完全に彼を中心に話が回るんだろう。
──遥風が妬んでしまうのも、分かる。
自分が必死に積み上げてきた技術や経験を、いとも簡単に飛び越えてしまう怪物じみた才能。
人を信じられなくなってしまった自分に対して、いつでも真っ直ぐ人を信じて、愛される彼。
けど──
策略と欲望に塗れた芸能界で、彼のような純粋な光があれば、それがどれだけの救いになるか。
最近、胸焼けするような出来事ばかりだったぶん、栄輔の純粋さが澄んだ水みたいに綺麗に思えて。
思わず、ちょっと口元が綻んでしまった。
と、そのタイミングで、栄輔が顔を上げて。
バチッと、視線が合った。
──あ。
見られた。
ちょっと笑ったの、絶対バレてる。
慌てて口元を覆うけど、もう遅くて。
栄輔の目は、信じられないものを見たように見開かれていた。
完全にミスった……!
