「遥風は……死んでも抗う気でいたと思うんです。最後の最後まで、言い争ってた。けど──」
栄輔の声が、ほんの少し震えた。
「今はもう、外国行きを受け入れるスタンスでいる。この番組では、デビューメンバーに入っても辞退するって」
「……」
私の中に沈殿していた黒い感情が、沸々と脳内を支配する。
どうして──夢を掴もうとしている子どもが、大人の都合ひとつで潰されなきゃいけないの。
どうして──どれだけ足掻いても、抗っても、結局『諦める』しかないところまで追い込まれてしまうの。
私たちの才能も、容姿も、努力も。
すべてが、大人の欲望を満たすための『飾り』なんかじゃないのに。
私たちは、使い捨ての人形じゃない。
「……はぁ」
怒りと、やるせなさと、色々な感情がぐちゃぐちゃになって、私はぐしゃっと髪をかき上げた。
そんな私を一瞥してから、ちょっと言葉を探すように視線を逸らす栄輔。
数秒間、張り詰めた沈黙が降りて。
──やがて、覚悟したように口を開く栄輔。
「……千歳くん、二次審査で遥風と仲良かったっすよね。きっと千歳くんから言えば、聞いてくれると思うんです」
その言葉に、私は一瞬言葉に詰まった。
栄輔、私と遥風が今不仲なの知らないんだ。
……今の遥風じゃ、きっと私が何を言おうが絶対に聞いてくれないのに。
「お前が思ってるほど、役に立てないと思うよ」
「……それでも、きっと俺が言うよりかは聞く耳持ってくれます」
「どうだか」
私の態度に、やっぱダメか、というふうに項垂れる栄輔。
……そうだ。私は栄輔に嫌われなくちゃいけない。
ここで彼の要求を呑んだら最後、変に懐かれて今までの努力が水の泡になる。
そのことは、痛いほどに理解していた。
──けれど。
本当に、何もしないままでいいのだろうか。
私が『嫌われ役』を全うすることは、今この瞬間にもがいている遥風を見殺しにできるほどに重要だと、果たして言い切れるのか。
栄輔の好感度なんて、後からいくらでも落とせる。
けれど──遥風は。
このチャンスを逃したら、もう二度と、立ち直れなくなるかもしれないのに。
そんな焦燥だけが先走って──気付いた時には。
「遥風の父親と接触できそうな機会って、いつ?」
そんな言葉が、唇からこぼれ出ていた。
