「申し訳ないんすけど、長くなるんで家まで送ります。どっち方面ですか?」
「……白綾北」
「それなら俺の家とも近いんでちょうどいいですね」


そう言うなり、栄輔はぐいっと私の手首を掴んだ。
その力強さに、思わず息を呑む。
今までの栄輔からは考えられない、強引な行動。

皆戸遥風や峰間京なら分かる。こういう類の強引さなんて日常茶飯事だから。

けど、至って常識人で、突き放せばすぐに傷ついてしまうような繊細な彼が、こんなふうに私を力づくでも連れて行こうとするなんて。
それだけで、彼の中で何か重大な出来事が起こったのだと察せずにはいられなかった。

そのまま私は引きずられるようにして、無言のまま夜道を着いていく。


静けさの中、木々が風で揺れる音や、遠くで電車が高架を通過する音がやけに大きく聞こえる。
日が沈むと、やっぱり気温はかなり下がっていて、頬を撫でる夜風が少し冷たかった。


くしゅん、と思わず小さくくしゃみをしてしまうと、さっさと前を歩いていた栄輔が立ち止まって振り返る。


「寒いですか?」
「……別に」


心配するような声音に、ぶっきらぼうなトーンで答えるけれど。


「本当?」


腕を掴んでいた栄輔の手が、すっと指先に移動して、私の手を掴んだ。


「冷たっ……ごめんなさい、気が付かなくて」


そう言うなり、自分の制服のブレザーを脱いで、私の肩にかけてくれる。
ふわ、と石鹸みたいな清潔感のある香りが濃く香って、思わず息が詰まった。


この子……学校でめちゃくちゃモテてそう。


しかも、心なしかも背伸びた気がする。
前までは私と同じくらいだった気がするのに、今こうやって向かい合って顔を見ようとすると、どうしても見上げるような形になってしまう。


「っ……」


そんな私を前に、感情を押し隠すみたいに目を逸らす栄輔。


……何か言いたいことあるなら言ってよ。