結局、エマプロ鑑賞中、私はほとんど上の空だった。

隣に座った栄輔の存在を意識するたびに、あの真剣な表情が脳裏をよぎるせいだ。


一体、何を話そうとしているんだろう。

──まさか、栄輔も私が女だって気づいたとか、ないよね。


勝手に脳内で最悪のシナリオが書き進められていって、目の前の画面に集中しようにもできなくて。

いつの間にか、番組は第四話のエンディングを迎えてしまっていた。


──やば、何も覚えてない。

今回見た話は、全体的に私たち以外のグループに焦点を当てていたから、私が序盤しか映らなかったっていうのもあるけど……それにしても、集中力が壊滅的すぎた。
後でもう一回、ちゃんと見直さないとな。


そんなことを思っていると、まだ次回予告が流れている最中で、不意に隣の栄輔が腰を上げた。

「疲れたんで先帰ります。お疲れっす」
「おつかれさーん」
「あれあれ、中坊くんはおねむの時間かな〜?……いだっ?!」

余計なことを言う陽斗の頭を結構本気で叩きつつ、ドアに向かう栄輔。

そうして部屋を出て行こうとする寸前で──肩越しに、私に目配せしてきた。


……来いってことか。


バタン、とドアが閉まり、栄輔の姿が部屋の外に消える。

私も、その数秒後。

「じゃ、俺も帰る」と腰を上げた。

「姫、送ってったろか?」
「お前ホテルとか連れ込むだろ絶対!ここは千歳くんの専属SP・小山明頼が行きまーす!!」
「大丈夫だから」

断る私をよそに、勝手に『男気だ』と言ってジャンケンをし始めようとする飛龍と明頼を慌てて止める。

「話聞いてって」

カメラの前なので、強くは言えない。
というわけで、ちょっと拗ねたような表情で見上げるだけにすると、明らかに動揺する明頼。


「……ハイッ聞かせていただきますッ!千歳くんの耳に自分の口をくっつけてしっかりとッッ!!」
「逆やろ」
「アッどうせくっつけるなら口と口……?!」
「お前もう引っ込んでろよ」


また何やら揉め始める彼らに内心ため息を吐きつつ、今のうちにバレないように気配を消して部屋を出てしまう。

ただエマプロを見るためだけに集まったのに、あそこまで騒げるエネルギーだけは尊敬ものだな……。


そんなことを思いながら玄関を出ると、すぐそこ──家の前の塀にもたれかかるように、栄輔が立っていた。

私が出てくるのを横目で確認すると、ゆっくりと体を起こす。


「すんません、無理言って」
「……さっさと済ませて解散したいんだけど」


カメラが無くなったので、私は外向きの笑顔を剥ぎ取り、代わりに『問題児』の仮面を被り直す。

冷えた視線で栄輔を睨みつけると、いつもの彼なら怯えたように目を逸らしたはずだった。

けれど──やっぱり、今日は何か違った。