「……っていうか、もしかしなくても椎木×冨上って同室?」
「かもね。一緒に出てきてるし……?」
「激アツじゃない?最年長と最年少のケミって……ちょっと推し候補だな」
真剣な顔をしてそんなことを呟く日茉里。
確かに、兄弟みたいだしどっちも高順位だし、人気は出そうかも……。
と、そんなことを思っていると、映像が切り替わって、カメラがスタジオ内の様子を映し出した。
それぞれの参加者たちが、ヘッドフォンで音楽を聴いたりストレッチしたりと、自由に過ごしているような様子を映し出す。
と、そんなカットの中の一コマとして、数秒間だけ映った光景。
その映像に──私と日茉里は、これ以上開かないんじゃないかってくらいに口をあんぐり開けた。
なぜならそこには──
皆戸遥風が榛名千歳に親しげに肩を組んでいる様子が映し出されていたから。
一拍、沈黙の後。
「「ぎょえーーーーーーーっ?!!」」
部屋中に、断末魔が響き渡った。
「ちょっ、ちょ、ちょっとタンマ!!!止めっ……あれ、止めれない!」
「バカ、ライブだから止めれないって!静かにして!」
一気に冷静さを失う私たち。
気持ちを落ち着かせようとして震える手で取ったグラスから盛大に水が溢れた。我ながら怖いくらい動揺してる。
「えっ、えーとえーと、どういう経緯で仲良くなったのカナ?」
「遥風があそこまで自分から絡みにいくなんて絶対に珍しいって。あの人割と臆病っていうか、自分の言動で誰かを傷つけるの怖くて距離取っちゃうタイプなのに」
「ってことは、よっぽど気に入ってるってことでしょうか」
「その通りです。皆戸遥風の生き字引の私が言うんだから間違いない」
「……」
どちらからともなく、私と日茉里は固く手を握り合った。
今日は祝日にしよう。授業出ないでこのアーカイブ回しまくろう。
静かに喜びを噛み締めていると、次の瞬間。
カメラが引いて、スタジオ全体が映し出される。私たちは光の速さで遥風と千歳を見つけて、ほとんど同時に指差した。
「「居たっ!!」」
遠目からしか見えないけど、遥風がやたら楽しそうに笑ってて、千歳くんは落ち着いた様子で静かに何か言ってる。
あぁ、遥風が結構グイグイ絡みにいって、千歳くんがきちんと良い後輩ムーブしてる、って感じなのね。ああ、解釈一致すぎて動悸が……。
普通に命の危機を感じて、なんとか鎮めようと大きく深呼吸をしたその時だった。
遥風が不意に口元を緩めて、慣れた手つきで千歳くんの頭を撫でたのだ──!!
「「グォエーーーーーーーっ?!」」
到底人間とは思えない声を出して、私たちは文字通りひっくり返った。
幻を、見ている……?
何度も目を擦っては画面を見るけど、遥風はちゃんと可愛がるように千歳くんの頭を撫でていて。
「……?……?」
「ナニコレ……?」
「ワカラナイ」
もはや日本語すら満足に話せなくなり、ロボットみたいにぎこちなく顔を見合わせる私たち。
数秒間、言葉を失って固まった後。
──ガシッ。
どちらからともなく、力強い握手を交わした。
遥千布教同盟、ここに締結。
「二人の絡みまとめ動画、作るよ」
「是が非でも」
その夜、私たちが血眼になってEP.3をリピート再生し、動画編集ソフトと格闘したのは言うまでもない。
