さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

栄輔は、曲が終わって数秒はまだ『黒羽仙李』の人格が抜けきっていないようだったけど、徐々に彼自身の意識を取り戻す。

拍手にお辞儀して照れくさそうに笑う彼は、もう私の知っている彼に戻っていた。こんな一見どこにでもいそうな少年から、あんなにも圧倒的なパフォーマンスが生まれるなんて、誰が想像できるだろうか。

「仙李のクセを、完璧にコピーしてきましたね」

講評にて、式町睦のコメントに、栄輔はお礼を言って勢いよく頭を下げる。

「ありがとうございます!」

「さすがに『仙李そのもの』とまではいかないですが……仙李のことをよく知らない人たちから見れば、充分『黒羽仙李』を感じられる仕上がりになっていたかなと」

一応賞賛はしているが、それでもまだ完璧な仙李ではないとの評価だった。
やっぱり、仙李に最も近しいグループメンバーだった彼は、『黒羽仙李』に関しては譲れないこだわりのようなものがあるんだろうな。

私は、黒羽仙李とは血縁関係だけはあるものの、それ以外は完璧な他人に等しい。というのも、仙李は私が生まれて数ヶ月のうちに自殺したので、もちろん話したことなんか一度もない。
睦の方が仙李への理解度が何倍も高いのは当然のことだ。

睦に続いてマイクを握ったのは、巫静琉だった。

「憑依系ですね。曲がかかった途端に目つきが完全に変わったのを見て、ぞくりとしました。踊ってる最中、自分の意識はあるんですか?」

「!えっと……」

自身の才能を瞬時に見抜かれたことに驚いたのか、少し目を見開きながらも、その質問に対する答えを考える栄輔。

「なんていうんすかね。夢の中って、夢だって気づかないじゃないですか。そんな感じで、憑依中も、自分が憑依中だって気づかなくて。曲が終わってから、ガクンッて役が抜けて、あっ、憑依してたんだって気づくんです」

「興味深い才能です。ありがとうございます」

満足したように微笑み、マイクを置く静琉。その後、朱那と凛也もそれぞれの言葉で栄輔を褒め称える。

その言葉一つ一つに、感無量といった様子でペコペコと何度もお辞儀をする栄輔。その姿は、どう考えても先ほどまで圧倒的なパフォーマンスをしていた人間と同一人物とは思えなくて。

成長を見守りたいタイプのファンにウケが良さそうだと思っていたけれど、前言撤回。
このギャップにやられたライト層をかき集め、とてつもなく巨大なファンダムを形成しそう。

だとしたら尚更、関わっちゃダメな奴認定だ。これからも全力で嫌われていこう。
私は一人そう心に決めると、モニターから視線を逸らす。

それにしても、私の出番はいつだろうか。
そろそろ来てもらってもいいんだけどなぁ……。