さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


──まだ声変わり途中のあどけない声。

至近距離で香る、清潔感のある石鹸みたいな匂い。

声の主は栄輔だった。

騒がしさに紛れて、内緒話をするみたいに身を寄せてくる栄輔。


「これ見終わった後、少し話せませんか。相談したいことがあるので」


予想外の言葉。

私は、反射的に彼の方に視線を向けた。

じっと真っ直ぐに見つめてくる目には、いつもの臆病さや遠慮の色はなくて。


──何か、変わった?


そんな予感が脳裏をよぎったけれど、具体的に何が、と言われると分からない。

ただ、その瞳に滲む真剣さから、彼が私に伝えたいことが、きっと無視できない類のものだって察してしまった。

正直、栄輔とはあまり関わりたくない。

接点が増えれば増えるほど、こじれる未来が見える気がして。


……どうしよう。


数秒間、ぐるぐると葛藤した後。

……いや、でも、これはむしろ、栄輔に嫌われるチャンスにもなり得るよね。

話だけ聞いて、うまく突き放して。

今まで通りにやれば、きっと一定の距離は保ったままでいられる。

そうやって、自分を納得させるための理由をかき集めて、私は口を開いた。


「……いいよ」


短く応じると、栄輔はほんの少しだけ息を吐くように笑って、前方に視線を戻す。

それにつられるように、私も画面に視線を向けた──けれど。

やっぱり、栄輔の様子が引っかかって、胸の中はざわついたままで。


──何を話そうとしてるんだろう。


そんな不安が、頭の片隅にこびりついて離れない。

映像は進んでいく。部屋の空気が、笑い声やざわめきに溶けていく。

そんな中、私だけ心を切り替えられないまま、ただぼんやりと、青白いスクリーンを見つめていた。