何故か。
だって、私がここにやってきたのは、彼らに嫌われるためなんだから。
当初の目的を遂行するために、私は罪悪感を押し込めて、そのペットボトルを押しやった。
「いらねー。お前からもらったものなんて体に入れたくない」
冷たく言い放って、そっぽを向く。これで少しでも傷つくだろう、と思って視界の端で明頼の反応を伺うけれど。
何故か、傷ついたというよりも、ちょっとぎくりとして気まずそうにしているような。
なんだ……?
「くっそ……事前に俺が飲み口舐め回してたのバレたか」
その爆弾発言に、明頼の背後でコンビニのコーヒーを飲んでいた雪斗がゴフッとむせた。
えぇ……?
「てめっ、マジでなんてことをしてんだよ!そろそろ本当に捕まるぞ!」
「いいじゃんか!推しとの間接キッスなんて夢じゃんか!」
「相手にとっては悪夢だよボケ!」
ギャーギャーと取っ組み合いを始める二人を前に、思わずため息を吐く。
こっちは一生懸命胸糞悪い奴を演じてるっていうのに、素で超えてこないでほしい……。
このままじゃ、一生彼らから嫌われることができない。
最初は順調だったのに、いつからこんなことになっちゃったんだっけ……。
「ごめんな千歳、せっかく来てもらったのにこんなことで」
ぜぇぜぇと肩で息をしながらそう言ってくる苦労人・雪斗に、心の中では同情しつつも、演技を続けて鬱陶しそうに眉根を寄せてみせる。
「来なきゃ良かった」
けれど、先ほどの明頼の件があったせいで、どれだけ嫌そうにしてもそれが正当な反応になってしまうのが痛かった。
こっからどうやってこちらの好感度を下げて行こうか、とちょっと苦心していると、明頼がケロッとした様子で話しかけてくる。
「でも実際、千歳くんがお誘い了承してくれたの意外だったわ。下々の民とは馴れ合いたくないタイプかと思ってた」
明頼の中の私の解釈、どうなってる……?下々の民?
と、若干戸惑いつつも、私はさらっと冷たく返す。
「別に、家にいるよりはマシだったってだけ」
と、そう言った瞬間。
明頼と雪斗がちょっと顔を見合わせて、そして同時に口元を押さえた。
「「生のツンデレ……」」
綺麗にハモった二人の言葉に、思わず表情筋が引き攣った。
あれ、なんかミスった……?
「明頼、お前聞いた?今の」
「聞いた。『別に、お前らと一緒にいたいとかじゃないんだからね!(照)』って」
「かわいー」
「言ってねーよ!!」
勝手に盛り上がる二人に慌てて突っ込みながら、内心頭を抱える。
……いや、落ち着け、私。
これから、ヤバめの言動を連発してドン引きされればいいだけの話なんだから。
多少好感度が上がっても、後からどうにかできる。
そう自分に言い聞かせるけど、完全にやらかした感は否めず。
はぁ、と思わず大きなため息が溢れるのだった。
