視線が、交錯する。

こちらの全てを見透かしてくるような、読めない瞳。

優羽は、私の顔を何も言わずにじっと見つめた後──静かに聞く。


「……天馬に、何か変なことを言われてないか?」


その言葉に、反射的に心臓が跳ねる。

この人、まさか……今のこの短時間で、何か勘付いた?

動揺が顔に出そうになるけれど、すんでのところでなんとか押し隠して。

私は、何も知らないような顔をして首を傾げた。


「特に何も?」


──声が、震えなくて良かった。

とはいえ、まだ決して油断は抜けない。

ドキドキと心臓を高鳴らせながら、榛名優羽の反応を待つ時間が、やけに長く感じた。


そして、数秒後。

目の前の彼は、何か考えるように目を細めた後。

「……ならいい」

とだけ、短く言った。

それだけ確認したかった、とでも言うように。

そのままゆったりと立ち上がると、踵を返す榛名優羽。

去り際に「早めに寝なさい」とだけ言い残して、そのまま音を立てて扉が閉まった。


「…………」


本当は、大きくため息を吐きたいところだった。

けど、監視カメラの前で大っぴらに感情を表すような真似は、ほとんど自殺行為。

まだ気は抜かずに、無表情を保ったまま立ち上がる。

きっと、リビングにカメラがついてるなら、自室にもあるのだろうな。

全く、息抜きできる暇もない。

早く寮に帰りたいよ……。

心の中ではそんなふうに弱音を吐きつつ、私は静かにため息を押し殺して、自室にあるベッドへと向かうのだった。