い、いつからそこに……?
気配も足音も全然感じなかった。忍者……?
ちょっと表情をこわばらせる私とは対照的に、涼しい顔を保って私から体を離す天馬。
「せっかくの従姉妹との感動の再会なのに?」
「接触が過剰だ。まさかお前がそんなに手が早い男だとは知らなかったよ」
……榛名優羽。
ずっと自室にこもっていたくせに、このタイミングで邪魔しにくるっていうことは──
ずっと、カメラの映像を監視していたとしか思えない。
綺麗な顔して、本当に気味が悪い……うちの母親も自宅のレッスンスタジオにサボり防止の監視カメラをつけていたけど、姉弟揃って倫理観ぶっ壊れてるのかな。
「自室へ戻りなさい。明日もスケジュールは朝から詰まってるんだから」
「……はーい」
納得いかないとでも言うように唇を尖らせながら、ソファから立ち上がる天馬。
ポン、と私の頭に手を置いて「またいつかね」とだけ言い残すと、リビングルームを後にした。
──そうして、残されたのは私と榛名優羽の二人だけ。
「悪かったね。もう少し落ち着いた子だと思っていたんだけど」
「いえ、大丈夫です……」
そんな申し訳程度の会話だけで、すぐに沈黙が降りた。
めちゃくちゃ気まずくて目を伏せているんだけど、それでもじっ、と鋭い視線が落ちるような強い気配を感じて、少し冷や汗をかいてしまう。
本当に、この人の真の目的ってなんなんだろう。
急に私を男装させて、超高級美容サロンで惜しみなく金を使って私を飾り、書類審査すらすっ飛ばして番組に滑り込ませた。
その異常な行動のどれもが、何か得体の知れない大きな目的のために仕組まれているような気がしてならない。
正直、この人とこれ以上二人きりでいる精神的余裕はもうなかった。
何か適当な理由をつけてこの場を去ろう──そう思って、口を開きかけたのと同時に。
「千歳」
それを見透かしたかのようなタイミングで名前を呼ばれ、ぴくっと肩が跳ねた。
