オーディション番組っていうのは、こういうものだ。

少しでも厳しい言葉を口にすれば、ここぞとばかりにその瞬間を切り取られ、『悪者』に仕立て上げられる。

視聴者の感情を揺さぶるため、ドラマに起伏をつけるため、誰かがその役を演じなければならない。

それが、番組にストーリーを持たせるために必須の演出だってことは重々承知の上。


けれど──

根はまっすぐで、思いやりのある人なのに。

それでも編集の力ひとつで、いかにも自己中心的な人間みたいに仕立てられてしまうのは、やっぱりやるせない。


なんだか一気に気分が落ち込んでしまい、黙り込んでしまっていると。


「……聞きたくなかった?」


不意に首を傾げ、私の顔を覗き込んでくる天馬。

初めてまともに視線が交錯して、その破壊力を前に私は0.1秒でバッと視線を逸らした。


顔が良すぎる。
エマプロで飽きるほどイケメンを見てきて、目は肥えてると思ってたけど、この人ばかりはレベルが違いすぎる。


「いや、ただちょっと……びっくりしただけで」


しどろもどろになりながら、素直にそう口にすると。
そんな私を前にして、少しだけ面白そうに目を細める天馬。


「なーに照れてんだよ」


言いながら、揶揄うように軽く肩を押され、突然のボディタッチに身体が硬直する。

な、何急に……!?
この人……もしかして、思ったより手慣れてる、っていうかチャラいんじゃ?

容姿が完璧すぎて、硬派なのかなって勝手に思い込んでたけど、やっぱ女の子慣れしてるのかな。

まぁ、そうなるのも自然か。白藤天馬レベルになったら女の子なんてよりどりみどりだろうし……。

「照れてないです……」

なんだか複雑な心境で、目を逸らしてさりげなく距離を取るけれど、天馬はせっかく作ったその距離をぐいっと埋めるように近づいてきた。


待って待って待って、本当に何……?


思わず少しのけ反ってしまう私を、じっと悪戯っぽく見つめてくる天馬。


「……そーいやさ、三次中に葵が散々惚気てきてたんだよね。榛名千歳の上目遣いが可愛いとか、良い匂いするとか」

「……?!」


突如明かされた衝撃の事実を前に、私は顔を赤くして絶句することしかできなかった。


鷹城葵、一体何を言ってくれてんの……?!

付き合ってるわけでもあるまいし、他人にそんな変なこと言わないでよ……!!


完全にパニックになりつつも、なんとか呼吸を正して思考を整えようとするけれど。
そんな私を邪魔するみたいに、スッと天馬の指が頬に触れた。

びくりと身体をこわばらせる私の頬を、軽く撫でながら、目の前の彼はふっと目を細めて。


「……今なら、あいつの気持ち分かるかも。マジで可愛いよ、お前」


その言葉に、思考が一瞬停止した。


……ん、なんて?


彼が言ったのがどういう意味なのか、完全に飲み込む前に。

ぐい、と私の背に腕が回され──

力強く引き寄せられた。

そのまま彼の胸に抱き込まれるような形になり、身体が強張る。


っ、な、何を……?!


急な彼のスキンシップに脳がついていけず、心臓だけが全力疾走する。


もしかして、白藤天馬も葵と同類の女好きクズ男だった……?!


体温が近くて、慣れない香水の香りがふわりと鼻腔をくすぐり、思考が一瞬にして混乱する。
焦りながらも、ただギュッと身構えることしかできない私の耳元に、唇が寄せられて。

その後、彼がポツリ、と囁いた一言は──


「早く榛名優羽から逃げた方がいい」


まったくの、予想外だった。