広いソファなんだから、もう少し向こう側に座ればいいのに。
今の私と天馬の距離は、数字にすればおよそ10cmくらい。
私もなんとなくスマホをいじるけれど、その画面に映る内容は全くもって頭に入ってきてない。
ただただ興味もないショート動画をスクロールし続けるだけ。
何も話さないならもう少し距離空けて座ってほしい、体から力が抜けない……。
息苦しさに耐えきれず、流石に自室に戻ろうかと腰を上げかけた──
そのとき。
「三次審査のとき、助けてやれなくてごめんな」
突如落とされた天馬の言葉に、私は弾かれたように顔を上げた。
相変わらず、彼は自分のスマホに視線を落としたまま。
その横顔は、改めて近くで見るとやっぱり驚くほど綺麗。鼻が高くて、フェイスラインが綺麗にくっきりと浮き出て、まつ毛が長い。
こうやって見てみると──榛名優羽の完全無欠な美形遺伝子をしっかりと受け継いでる。
ちょっと見惚れてしまう私を見ないまま、続ける天馬。
「葵のとこがやばそうだったのは知ってたんだけど……こっちも余裕なくて」
「……揉め事ですか?」
意外に思って聞いてみると、こくりと頷かれた。
「天鷲翔と皆戸遥風以外の二人が、自分たちのパートが少ないってめちゃくちゃ拗ねて、練習来なくなってさ」
「……え」
予想もしていなかったその言葉に、私は思わず声を漏らしてしまう。
そんなことがあったの……?
てっきり、私たち以外のチームはみんな順風満帆だったものだと思っていた。
確かに、ステージで翔と遥風が美味しいパートを多く担当していたのは確かだけど──
それは至って当然のことだと言える。
だって、二人は二次審査で一位と二位を張った正真正銘の実力者。
二人が前に出ることで、自ずとグループ全体の完成度も上がるのだから、こういう構図になるのは必然だった。
けれど──他の二人も、脱落寸前の位置にいるからと余裕が無くなっていたのだろう。
言葉を失う私に、天馬はちょっと肩をすくめて続ける。
「皆戸遥風がブチ切れて、翔が間に入って橋渡し役になって、崩壊寸前でなんとか凌いでくれた。多分、編集は大喜びだろうな。ああいう派手な揉め事は『映える』から」
淡々とそう告げられ、私は思わず息を呑んでしまう。
それって、つまり──
「悪編、ですか」
「そうなるね」
さらりとそう言う天馬に、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
